先日Wall Street Journalで”How to Stop Hospitals From Killing Us“というタイトルのエッセーを見かけたので読みました。
著者は,MARTY MAKARYというJohns Hopkins University Hospitalの外科医で医療安全に造詣が深く,WHOの唱導する”The Surgical Checklist”運動にも参画しているようです。
ごく最近”Unaccoutable:What Hospitals Won’t Tell You and How Transparency Can Revolutionize Health Care“というタイトルの本を出版していてエッセーはその本のプロモーションの一環なのだと思います。(参照)
英語はそう難しくありません。なので集中すれば4時間もあれば読み終わることができると思います。
Kindle版は$12.64です。ぼくはKindle版を買いました。
主題は,”accountability“です。 治療成績の開示,標準治療の開発,院内の各職種間のチームワークを含めた医療内容の透明性の確保が医療を変革していくのだという主張を述べた著作です。
“Dr. Hodadとthe Raptor”という章があります。
Dr. Hodadとthe Raptorはどこの病院にもまたどの診療科にもかならず一人はいる医者のことです。
Dr. HodadとはHands of Death and Destructionの略です。
診療技術のレベルが低く手術の必要のないただの腹痛を虫垂炎だと診断したり,手術をすれば考えられないような合併症を作ってしまうのだが,とにかく人当たりがよく弁舌鮮やかで患者や研修医レベルの駆け出しの医者はコロッとだまされてしまいます。
同業者からはこのような医者の患者にはなりたくないと思われています。
この対極の存在はthe Raptorです。一般的には猛禽類をあらわす単語です。
腕はとびっきりよいのですが,とにかく愛想の欠片もなく患者,医療従事者には変人として通っているような医者のことです。少なくとも同業者からはいざという時にはこのような医者に手術してもらいたいとは思われています。いわゆるブラックジャックタイプの医者です。
外科医に限りません。麻酔科医にもDr. Hodadやthe Raptorはいます。
学会で弁舌鮮やかに話す医者が実は自分の病院では手術室に出してもらえない位に臨床能力が低い麻酔科医であるということが実際にあるのです。しかもこのような医者はよく事情を知らない研修医には「ウケ」がよかったりしてそれ故,碌でもないことを吹き込んでいくのです。このような医者は自分は名医だと思い込んでいることがありさらに問題を大きくしていきます。
問題はDr. Hadadが自分のごく身近に存在したとしても誰も明示的にその医者の医療活動を阻害したりしないということなのだと指摘しています。
“Supersurgeon”つまり「神の手」の問題も指摘しています。 イランのパーレビ国王の脾摘をあのDeBakeyが行いその仮定で膵損傷を引き起こし結局その合併症故に彼の死期を早めたというエピソードが紹介されています。
確かにwikipediaなどにも記載があります。(参照1, 参照2)
The Shah returned to Egypt in March 1980, where he received urgent medical treatment, including a splenectomy performed by Dr. Michael DeBakey[72], but nevertheless died from complications of Waldenström’s macroglobulinemia (a type of non-Hodgkin lymphoma) on 27 July 1980, aged 60.
亡命先のエジプト,彼の庇護者であった米国もこのような神の手神話から自由であることができないという実例です。
一大学の教授選考委員会がこのような医者を排除できないのは仕方の無いことです。
“Unaccoutable:What Hospitals Won’t Tell You and How Transparency Can Revolutionize Health Care“の目次を挙げておきます。
- Dr. Hodad and the Raptor
- Danger Zone
- The New York Experiment
- The Supersurgeon and the Shah
- “How I like to Do It”
- Navigation system
- The Tap the power of patient outcomes
- Impaired Pysicians
- Medical mistakes
- Ask Before you give
- Eat What You Kill
- The All-American Robot
- Drivers of Culture
- Healthonomics
- Candit Camera
- A New Generation for Honest Medicine
- What accountabílity looks Like
興味があれば新聞の記事だけでなく本の方も読んでみてください。
研究者にもこのような問題はあるのですがこれは今度の機会にでも。
土曜日にBUNGO〜ささやかな欲望〜の「告白する紳士たち」の3編を観ました。 原作は
- 「鮨」岡本かの子
- 「握った手」坂口安吾
- 「幸福の行方」林芙美子
で全て青空文庫で読むことができます。原作をドラマチックに改変いるのですが基本的には原作に忠実な映画化だと思います。
観終わって大変幸せな気分になっていたら家内に気持ち悪いと言われました。生まれ生まれ変わったら「幸福の行方」に主演していた波瑠さんのうような人と一緒に歩いていきたいと家内に話したら次はお前は人間に転生できないのでそんなことを今考えていても意味が無いと言われました。
少し前にテレビで同じようなBUNGOの短編小説の映画化がありました。(参照)
こっちもよくできていたと思います。