三重大学の島岡要さんが行動しながら考えよう 研究者の問題解決術というタイトルの本を羊土社から出版されました。

本を送っていただきました。どうもありがとうございました。

早速帰宅時に読んでみました。

 

恒例によりちょっとした書評というより感想文です。 (参照1, 参照2, 参照3)


まずもくじです。

序章 悩める若手研究者とその卵たち12のケース

第1章 行動しながら考えよう―Thinking While Acting

第2章 ネガティブな感情を活用しよう―ネガティブな感情を避けるのではなく、自身の成功を導くものに転化させる方法

第3章 研究者は営業職。視点を切り替えよう―研究室内の上司-部下の関係を良好にするための方法

第4章 研究室での自分の立ち位置を分析してみよう―PI原理主義に染まって視野が狭くなった状態を脱却する方法

第5章 情報化社会だからこそ「暗記力」を強みにしよう―暗記力と理解力を鍛えて知的生産性を上げる方法

第6章 新しいことをはじめてみよう―進むべき道を探求し、自分で選んだことに自信を持つ方法

第7章 戦略的に楽観主義者になろう―失敗に対する耐性をつけ、研究を好転させていく方法

あとがきにかえて

最近の社会学とか心理学の最新の成果を援用して良く咀嚼して研究者が行動に踏み出すように後押しするために書かれた本です。

トランプ氏の大統領就任のエピソードまで含んだ今日性にあふれた一冊です。

特に今回は島岡さんの実体験が大量にぶち込まれていて読み始めると一気に最後まで引っ張られていきます。

 

序章に置かれた悩める若手研究者とその卵たち12のケースへの具体的な解決法の指南としてそれ以降の7章分が当てられるという形式となっています。

この「序章」が効果的です。

12のケースのうち2つを紹介します。ちょっと長い引用ですがお許しください。

大学院生Iさん 23歳 男性

修士課程の1年生です。学部2年の頃から研究室に出入りしていて低酸素環境におけるがん幹細胞の代謝変動について研究をしています。教授や先輩方の指導のおかげでこのたび筆頭著者の論文をネイチャー姉妹紙に出すことができました。来春には国際学会でオーラル発表予定しています。教授からは「君は研究者になるべきだ」と言われて僕もなんとなくそのつもりでいるのですが研究者として成功する自信がありません。どうすればスタッフや先輩方のように自信が持てるのでしょうか?

まず提示されるアドバイスは

「苦労して成功を体験して,戦略的に楽観主義者になろう」

ポスドクKさん 29歳女性

同じ研究分野の人が集まる学会や研究会に参加しても他人とコミニュケーションをとることができません。 講演を聞いていても色々と質問したい事は思い浮かぶのですが一度も質問に立った事はありません。自分がポスター発表する折りも「説明してもらえますか」と言われて初めて口を開く有様で「説明しましょうか」の一言はいつも喉元まで出かかって飲み込んでしまいます。これじゃあ,研究者というかそもそも社会人としてダメですよね。こんな性格だから最近は社会そのもので自分の居場所がないように感じてしまいます。

「内向的な人は多い,内向的である事をかえる必要はない。」


これらの「ケース」がどれくらい実在の人物に対応しているのかは不明ですが12ケースは誰しも一度は悩んだことのある問題点を抱えたケースとなっていると思います。

以下すこしぼくの体験を入れたコメントをしてみます。

第二章はネガティブな感情を活用しよう―ネガティブな感情を避けるのではなく、自身の成功を導くものに転化させる方法

ぼくは一言で言うと劣等大学院生でした。(参照)

ぼくは4年間-医者の場合は修士課程がなく博士課程が4年間の場合が多いのです-で博士号を取得できなかったのです。

しかしとにかくなんとかしないとはいけないと思いからがむしゃらに実験を毎日繰り返していました。

「なんとかしないとはいけない」という気持ちは,学位無しでは指導教授やぼくを破門した師匠に顔向けができないのではないか,このままでは自分はタダのバカとして埋没してしまうのではないか, というネガティブな感情でした。

学位が取れたらもう研究はするまいと思っていたのですが論文が出て学位が取れて結構ヒットしたらもっとやってやろうと思いはじめてそこから20年です。

留学の時の奨学金も二つ当たり「なんかチョロいな」とか思っていたのですからいい気なものです。

留学中は朝7時に研究室に来て16時には帰るという生活でした。土日は研究室には行かず。これは日本にいたときから比較して遥かに温い。

それなのに論文は結構出ました。

Nature姉妹紙にも出ました。他の研究室との共同研究でしたがfigureの控え目に言って半分以上はぼくの実験でした。追加実験無しでreviewerのコメントは統計法をきちんと書いてね位だったと思います。研究室のbossは最低でもco-1st authorを主張していましたが帰国することが決まっていたしぼくには何の執着もありませんでした。

Genes & Developmentにも出ました -IFは今ではそう高くないのですが当時はScienceより高く多分20位だったと思います-。これはco-1st authorでこれまたfigureの半分以上はぼくの実験結果でした。これも追加実験無しでover-discussionの部分をクールダウンせよという指示でresivionにかかった時間は二時間くらいだったはずです。朝返事が来たと言われて午後にはもう送り返したと言われたのを覚えています。ぼくを筆頭にとbossが言ったのですがこれも断りました。帰国することが決まっていたしぼくには何の執着もなかったので。今では被引用回数が1000回を越えました。

ちなみに,Nature姉妹紙は400回強でぼくの学位論文は800回強の被引用回数です。

ここでさっさと臨床に戻っていれば麗しい思い出に浸って余勢をゴージャスに送れたのにと思う事は今でもあります…

 

第5章 情報化社会だからこそ「暗記力」を強みにしよう―暗記力と理解力を鍛えて知的生産性を上げる方法

「暗記力」で受験を生き残ってきましたが単なる記銘力は低下してきています。

しかし,ぼくとて今でも「暗記力」は駆使しています。

50人以上の前で行う1時間くらいのプレゼンテーションなら一言一句暗記して臨みます。朝起きて蒲団の中でslideの「絵」が思い浮かびそこで話す言葉が想起できたらその日のプレゼンターションはぼくの基準では成功です。持ち時間の80%でまず終わることができるように調整します。

論文の執筆時の参考文献は100篇くらいならpost-itの力を借り手ですが何処に何が書いてあったか大体覚えています-但し論文が通れば全部忘れます-。

 

第6章 新しいことをはじめてみよう―進むべき道を探求し、自分で選んだことに自信を持つ方法

この章はとても身につまされました。

自分が無能であることが判明し,大学から追い出されるまではやってみようと思えるようになった。 引導を渡されたときには,その次のことを考えようと開き直れた。捨てる神あれば拾う神あり。”When one door shuts, anothor opens”だ。

これに尽きるなと最近日々思っています。

 

この本で言及されている何冊かをあげて置きます。

「弱いつながり―検索ワードを探す旅」

「暇と退屈の倫理学」 (参照)

「学びとは何か――〈探究人〉になるために」

「採用基準」

「ファスト&スロー」

島岡さんはこの本の原稿執筆をSiriとiPhone版のOneNoteを援用して行ったそうです。 ぼくも,大学院生IさんとポスドクKさんのエピソードは音声認識ソフトを用いて「入力」しました。確かにびっくりするほどの精度ですよね。

 

「何かを自分でする」,「何かをさせられる」という区別はなかなか難しいしホントはその中間的に皆生きているのだと思います。
島岡さんの提案もマニュアルではありませんのでそれを受け取る読者次第ですね。
ただ一読するとNUDGEされたという感覚は確実に残って何かはじめようと読者は思うようになります。

一般化できることを敢えて研究者向けに絞り込んでいることがこの本の成功を担保している要因だと思います。

 

この行動しながら考えよう 研究者の問題解決術」,少なくとも「科学の問題」以外で悩んでいる研究者には一読をお薦めします。

 

 

と考えてきてやっぱりこれかなと。

この本の要素が全部入っている一曲です。

ちなみに,乃木坂46の齋藤飛鳥さんは、

「私は人間的に暗いので、相手も『この人なんか暗いな』っていう一面があると仲良くなれそうだなと感じます」「たぶん、私一日中壁の目の前でも生きていくタイプ。それでも楽しく生きていけます」

なんだそうですよ。あまり信じてもらえないかもしれませんがー家内に聞けば解りますーぼくもホントは暗い人間です。

 

昨日この本を読み終えて風呂に入ったあとテレビで将棋の加藤一二三さんのドキュメントをNHKで放送していたのを偶然観ました。

加藤さんは,将棋が強くなるかも知れないと考えてキリスト教に入信されたのですね。

やっぱりぼくにはマネできないなと。

「科学の問題」以前に「人生の問題」で負けている,かも。

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