2019年 研究総括

On 2019/12/31 火曜日, in hypoxia reseacrh, by bodyhacker

恒例ですので今年も「ハイポキシア生物学の2019年を振り返って」を書こうと思ったのですがネタ切れなので自分の研究室の2019年の総括もいれて水増しします。

でも短いです。すみません。

今年の成果を報告する必要がありまとめてみたら論文は英文/邦文、原著/総説/雑文/書籍を合わせて16報出せました、と思っていたら一つアクセプトされたんので17報でした。

預かっていた院生二人の論文もpublishされてこれで期限内に学位を取得して卒業()できる見込みとなりました。

二人とも本文のfigure 8, supplemental dataは9まである結構大きな論文ですから恥ずかしくない博士号になると思います。

ぼくらは教員は二人しかいないのでこれで十分だと自分では思っていますが他の人がどう思うかはわかりません。


2019年の総括

pubmedで”HIF[TIAB] and 2019[DP]” (2019 12/31)と検索窓に入力すると1804報の論文があると返ってきます。

”HIF[TIAB] and 2018[DP]”では1717篇で,”HIF[TIAB] and 2017[DP]”1773報でした。

“hypoxia[TIAB] and 2018[DP]” では6924報だったのが”hypoxia[TIAB] and 2019[DP] “(2019 12/31)では7147報です。

 

HIF/低酸素の研究にとって今年はよい年だったのだと思います。 Semenza氏、Ratcliffe氏、Kaelin氏がノーベル生理学・医学賞を受賞しました。 1990年代からこの分子の研究をしてきた者からみるとこの3人でよかったのかという気もしますが3人ならこの面子だろうなとは思いました。 2人なら誰と誰、1人だとすると誰といろんな事を考えました。

ノーベル賞に増してぼくにとってよかったことは、受賞決定に先駆けてSemenza氏が来日した折りに職場でセミナーをしてもらいその後日本から彼のlabに参加していた日本人研究者の何人かと同窓会を開くことができたことです。

今までこの面子で集まった事はなかったのですごくよかったです。

癌学会での講演と関西医科大学での講演のダブルヘッダーで疲れるかもと思いましたがこんな機会は今後無いのだからと話すと本人も観念して枚方にやってきてくれました。

皆さん聞いたらびっくりするような小額な講演料しか出せませんでした。

 

これで終わるのも味気ないのでepisode hehind a reportを一つ。

多血症」という病態があります。

いろんな原因で多血症になるのですが家族性赤血球増多症(familial erythrocytosis)という分類があってこれまでに4つの型が報告されています。つまり遺伝子の異常で発症する多血症です。

 川端先生(ぼくの医学部時代の同級生です)の総説を読んでいただくと懇切丁寧に解説されています。

4つのうちの3型はHIFの経路の異常で説明されます。

VHL, PHD2, EPAS1の異常なのですがこのうちVHLの異常はぼくらが2002年に報告しました。

論文は、Disruption of oxygen homeostasis underlies congenital Chuvash polycythemia Nature Geneticsに掲載されました。

Prchal氏というSemenza氏の古くからの共同研究者らが追究してた家系から同定された遺伝子変異が原因で発症するというコンセンサスが得られています。

先に紹介した川端くんの総説から引用します

ロシアのボルガ川流域のトルコ系民族が住むChuvash地域に多くみられる.VHL遺伝子の変異が原因である.変異VHL蛋白はE3ユビキチンリガーゼやHIF-1 と結合できないため,HIFαの分 解 が 抑 制 さ れ て,HIFの 標 的 遺 伝 子 で あ るEPO,グルコース輸送体,トランスフェリン,トランスフェリン受容体1(transferrin receptor 1:TfR1),VEGF などの発現が増加している14).Hb値は 20 g/dlを超え,血圧が低めで,心筋梗塞や血栓症,脊髄の血管腫の頻度が高い15).1型とは異なり,血清EPO濃度は増加している.

解説しますがHIF-1aと結合できないという記述は正確さに欠けます。

ぼくは当然的にこんな病気は知りませんでした。

positinal cloningが行われてVHLのmutationが原因として同定(VHL-Arg200Trp)されました。

この変異が確実にHIFのシステムの活性化につながりEPOの発現亢進につながるのかが論文として報告するために必要でSemenza研との共同研究となりぼくが実験を担当しました。

この論文のHIFに関する実験はぼくが担当しました。この論文figureは5つでそのうちの3っつはぼくの実験結果だったのです。(Figure3のaのWesternはぼくの実験結果ではありませんけど)

Chuvash Polythythemia常染色体劣性遺伝でVHL-Arg200TrpはVLH-wildと比較して何らかの機能が失われているとの仮定の下に検討を進めることにしました。

そしてこれは簡単に結論がでると直感しました。

VHL-Arg200Trpはelongin B/Cとの結合が阻害されてその結果HIF-1が活性化されるのだという筋読みです。

しかし実験をするとこの仮説が誤りだということが一週間もしないうちにすぐに解りました。結合に差がみられないのです。-これは論文には図としては提示されていません- 次にVHLとHIF-1aとの結合実験を試みました。しかしここでも「差」がみられないという結果で困り果てました。

第16回 がんとハイポキシア研究会 ノーベル賞 001

それならと思いユビキチン化をin vitroの実験系で検討してみました。ここでも差が無く万策尽きたのですがここで一計を案じました。つまり十分に長い反応時間をとらずに比較的に短い時間を試すことで差が検出できるかどうかを検討したのです。 これが大当たりで突破口が開かれました。 この変異体は野生型に比較してHIF-aとの結合能とそれに続発するユビキチン化能が低下しているのですがこの差は酸素分圧が比較的に高い条件化で顕在化するのであって例えば1%O2というような条件下では差が失われてしまうが故に(+/-)を検出するような雑()な条件では差()が検出しにくかったのです。

この論文査読コメントは単純で統計法をちゃんと記載してねだけでした。 追加実験無しでアクセプトされました。ぼくは3rd authorでしたがGreggは不満で Prchal氏に掛け合ってくれましたがぼくは全然なんとも思っていません。どう考えてもVHL-Arg200Trpを見つけた人が偉くてぼくはもっとも標準的な実験を行っただけでしたから。

因みにこの研究はGreggのNobel賞講演でも紹介されていました。

スクリーンショット 2019 12 30 22 06 56

その後PHD2,EPAS1の遺伝子異常が報告されて役者が揃いました。このpathwayの全てに変異が見つかるという奇跡的な展開です。

HIFというのはもともとEPOの発現誘導を説明する細胞内因子として単離されたのですがその後EPOの発現は直接的にはHIF-2がになっているいることが示されてでもerythrocytosisの遺伝子異常はHIF-1の文脈でその機序がまず明らかになるなどの面白い運命をたどりました。

このprojectはNature Geneticsに出たので特に誰も文句はなかったのですがぼくにはどうしても理解できないというか引っかかる事がありました。

VHLの200番目のアミノ残基はC端に近く当時の皆の理解ではelongin B/Cと相互作用をするドメイン(α domain)に含まれると思っていたし最初の作業仮説もそれに沿っていた訳です。しかし結果としてはHIF-1aとVHLの相互作用に影響があるという事になったのでここに不燃焼感が残ったのです。

しかしこの疑問はこの論文によって一応解決しました。

Structure of an HIF-1alpha -pVHL complex: hydroxyproline recognition in signaling.

 

これをみるとVHLのC端はβ domainを構成するような立体構造をとっているというのです。

第16回 がんとハイポキシア研究会 001

 

坂道グループの一つに「最前列へ」という曲があります。

以前書いたことがありました。


一番好きだとみんなに言っていた小説のタイトルを思い出せない

一番好きだとみんなに言っていた小説のタイトルを思い出せないという曲があります。

坂道グループの一つのの上村ひなの(キャッチフレーズは「いつでもどこでも変化球、ひなのなの」因みに15歳)さんがうたいます。

まず聞いてみてください。

歌詞はここから。

じっくり聴くとなかなか身につまされる曲ですね。

 

研究が好きだけど時間がないとか言われてもぼくは困ります。

だぶんそんなに好きじゃなかったのだろうとしか思いません。

だったら本当に好きなことしたらどうなかと思うだけです。


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2018年 研究総括

 

恒例ですので今年も「ハイポキシア生物学の2018年を振り返って」書こうと思ったのですがネタ切れなので自分の研究室の2018年の総括もいれて水増しします。

でも短いです。すみません。

 

今年の成果を報告する必要がありまとめてみたら論文は英文/邦文、原著/総説合わせて10報出せました。

教員は二人しかいないのでこれで十分だと自分では思っていますが他の人がどう思うかはわかりません。

 

今年はじめたプロジェクトにバクテリアのメタゲノムがあります。

12/27に論文がなんとかアクセプトになりました。

ノウハウを獲得したので今後しばらく続けていこうと思っています。

 

pubmedで”HIF[TIAB] and 2018[DP]” (2018 12/31)と検索窓に入力すると1717報の論文があると返ってきます。”HIF[TIAB] and 2016[DP]”では1695篇です。”HIF[TIAB] and 2017[DP]”1773報です。

“hypoxia[TIAB] and 2017[DP]” では6789報だったのが”hypoxia[TIAB] and 2018[DP] “(2018 12/31)では6826報です。

数年前から免疫の分野でHIF関連の優れた研究が次々と発表されるという傾向は今年も持続していました。一方で分子生物学会や癌学会の演題を検索しても低酸素とかHIFとかのキーワードをもつ演題はほんと少なくなりました、というのも去年と一緒です。

今年も免疫系の雑誌でよく取りあげられていたと思います。

 

多分これは書いて良いと思うのですが来年の9月の末にGLSさんが来日して職場でもセミナーを開いてくれる予定になっています。

セミナーのトピックスはhistory behind the science的なものにしてもらおうと思っています。

皆さんHIFについて彼が話しているのは聴いたことがあってもそれ以外の話はあまり聴かれたことがないのではないかと思います。

敢えてこじんまりとやろうと思います。またアナウンスします。

 

ぼくの論文の被引用回数をGoogle Scholarで定点観測をしています。

  • 2013年: 732
  • 2014年: 728
  • 2015年: 669
  • 2016年: 558
  • 2017年: 585
  • 2018年: 541 

と推移しています。

伸びが止まったもいえるしこれくらいで定常状態になったともいえるしこればっかしは自分がどれだけがんばっても過去の業績については何もできないのでこれから自然減を新たな論文で補っていくということになります。 まあどうでもよいことなのですが被引用回数は論文(雑誌でなく)に対する評価このように明確に数値化される指標があると気になります。

という訳で来年もよろしくお願いします。

来年は医学部の学生と読書会もはじめます。一冊目は「エピジェネティクス――新しい生命像をえがく」です。

このブログも続けていきます。


「私の人生観」

小林秀雄に「私の人生観」という作品があります。講演録のような体裁で書かれた比較的に長いものです。

冒頭近くに

天職」についての記述があります。

私は書くのが職業だから、この職業に、自分の喜びも悲しみも託して、この職業に深入りしております。深入りしてみると、仕事の中に、自ずから一種職業の秘密というべきものが現れてくるのを感じて来る.あらゆる専門家の特権であります。秘密と申してもむろんこれは公開したくないと意味の秘密ではない、公開が不可能なのだ.ヒトには全く通じようもない或るものなのだ。それどころか、自分にもはっきりしたものではないのかもしれぬ。ともかく、私は、自分の職病の命ずる特殊な具体的な技術の中に、そのなかだけに、私の考え方、私の感じ方、要するに私の生きる流儀を感得している。かような意識が職業に対する愛着であります。

という文章があり、その直後に

今日では様々な事情から人が自分の一切の喜ぶ喜びや苦しみ悲しみを託して悔いぬ職業を見つけることが大変困難になったので、多くの人が職業の中に人間の目的を発見することを諦めてしまったからです。これは悲しむべきことであります。

とあります。 ぼくは職業的に麻酔と基礎研究をしていますがいまや医者という職業は普通の労働者が行うものとなってしまいこの職業は「天職」として全うするのが困難になってしまったと思います。

今年世間的に話題になった医学部・医科大学の入学試験問題もこのような状況を反映したものだと思います。

 

一方基礎研究の界隈では研究者は単なる労働者でありタイムカードでその勤務状況を管理すべきだという議論はあったとしてまだまだすごく少数派です。

この「私の人生観」後半にはこんな記述があります。

私がここで、特に言いたい事は科学とは極めて厳格に構成された学問であり仮説と検証との間を非常な忍耐力を持って往ったり来たりする勤労であって今日の文化人が何かにつけて口にしたがる科学的な物の見方とか考え方とか言うものとは関係がないと言うことです。そんなものは単なる言葉に過ぎませぬ。実際には様々な種類の科学があり見る対象に従い見る人に気質に従い異なった様々な見方があるだけです。対象も持たず気質も持たない精神は科学的見方と言うような漠然たる観念を振り回すより他に能がない。心理的現実だとか歴史的現実だとか、何だかんだと彼んだとかいう現実の合理的模像が、彼を閉じ込めている。

おっしゃる通りに「科学的」であるとはそう簡単なことではありません。

これは職業的な科学者でもいうのですから閉口します。

医療でも同じです。医療とて体系を持った学問であり「仮説と検証との間を非常な忍耐力を持って往ったり来たりする勤労」であるのですがそれを理解していない人は多いと思います。

扱う材料に精通し、材料の使い方に個性的方法を自覚し、仕事の成り行きに関し、素人に伺い知れない必然性を意識し、成就した仕事に自分の人格の刻印を読む、そういうことがどんな仕事にせよ、練達の人には見られるのであるが、

 

前回書き忘れました。 「人体はこうしてつくられる――ひとつの細胞から始まったわたしたち

「素人に伺い知れない必然性を意識し、成就した仕事に自分の人格の刻印を読む」ような一冊です。

こういう本を書いてみたいものだと思います。

 

人体はこうしてつくられる――ひとつの細胞から始まったわたしたち


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恒例ですので今年も「ハイポキシア生物学の2017年を振り返って」をやります。 でも短いです。すみません。

~メトリクス~

pubmedで”HIF[TIAB] and 2017[DP]” (2017 12/31)と検索窓に入力すると1717篇の論文があると返ってきます。”HIF[TIAB] and 2016[DP]”では1719篇です。

“hypoxia[TIAB] and 2016[DP]” では6607篇だったのが”hypoxia[TIAB] and 2017[DP] “(2017 12/31)では6616篇です。

昨年から免疫とくに獲得免疫の分野でHIF関連の優れた研究が次々と発表されるという傾向は今年も持続していました。 分子生物学会や癌学会の演題を検索しても低酸素とかHIFとかのキーワードをもつ演題はほんと少なくなりました。

例年だとここで今年読んだ論文を紹介するのですが今年はなしです。 12月忙しくて準備不足。

この分野から来年こそは某ノーベル賞が出ることを祈っています


今年

ぼくの論文の被引用回数をGoogle Scholarで定点観測をしています。

  • 2013年: 724
  • 2014年: 718
  • 2015年: 651
  • 2016年: 547
  • 2017年: 570

と推移していて減少傾向が止まったように見えるのですがどうなのでしょうか

h-indexも45になりました。 これの引用が伸びました。

ぼくがscienceをすることの目標の一つは「他人の世界観を変革する」事なので論文が他人の論文に引用されるのはその指標の一つになっています。

引用されない論文は「産業廃棄物」だとぼくは思っています。


歩くこと

日が長い季節には帰宅途中、天満橋で電車を降りて(普段は終点の淀屋橋まで乗っています)歩くときがあります。

目標は、阪急梅田駅。

最短で歩けば3kmくらいですがわざといろんな道草を食べながら歩くと4km長ければ5kmくらい歩くことになります。小一時間くらいでしょうか。

研究室でうじうじ考えていても限界があります。そんな時は歩きます。

大阪の通りを見ながら考え事をしながら歩きます。

こんな本があります。

ウォークス 歩くことの精神史

興味があればどうぞ。

 

という訳で来年もよろしくお願いします。このブログも続けて行きます。


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