恒例ですので今年も「ハイポキシア生物学の2016年を振り返って」をやります。

2002年に帰国したとき産業技術総合研究所の主任研究者になりました。

そこからしばらく基礎研究者が麻酔もする人間になっていたのですが,結局は麻酔をする人が基礎研究もする生活に戻りました。

今年の7月から再度基礎研究者が麻酔もするということになりました。


~メトリクス~

pubmedで”HIF[TIAB] and 2016[DP]” (2015 12/28)と検索窓にと検索窓に入力すると1688篇の論文があると返ってきます。HIF[TIAB] and 2015[DP]では1774篇です。

“hypoxia[TIAB] and 2014[DP]” では6207篇だったのが”hypoxia[TIAB] and 2016[DP] “(2015 12/28)では6471篇です。毎年これだけの論文が安定的に出ているという事に驚きます。

ちなみにコントロールの”iPS[TIAB] and 2014[DP]”では724篇で”iPS[TIAB] and 2015[DP]” (2015 12/28)では705篇でした。

今年は免疫とくに獲得免疫の分野でHIF関連の優れた研究が次々に発表されました。


アルバート・ラスカー基礎医学研究賞

アルバート・ラスカー基礎医学研究賞をSemzan氏が他の二人の研究者と受賞しました。

ぼくの研究の区切りがついたような気持ちがして清清した気分になりました。

とにかく自分が若い頃(1990年代)重要だと思ってかなり入れ込んだ仕事(HIF-1活性化の分子機序の解明)が確かに意味のあることだったと認めてもらえたことにすごく満足しています。 1990年代はこの分野の研究ヒストリーですごくexcitingな10年でした。この10年間を学問領域の立ち上がりからつぶさに観察・関与できて幸せな研究人生を送れたと思います。

残るはノーベル賞です。晴れ舞台でかつての仲間とreunionできたら最高です。

このブログに発表したエントリーをすこし変更して再度掲載してまとめとしておきます。手抜きです,済みません。

来年も研究はしますから関係者の皆さんよろしく!!


Lasker award

今年の2016 Albert Lasker Basic Medical Research Award

Gregg L. Semenza博士が、米国と英国の他の二人の研究者と共に決まりました。

 

受賞は

Oxygen sensing – an essential process for survival

への貢献です。

 

彼がJohns Hopkins Universityで運営してた(今もやってますが)labにぼくは1999年の8月から2002年の2月までvisiting professorとして参加しました。

 

彼の言葉で今でも印象に残っていることが二つあります。

HIF-1のcloningは彼が主に中国人のポスドク(Wang)と行った仕事なのですが、ある日、自分のオフィス(といってもラボの一角を仕切って作った2.5畳のスペース)の扉を閉めて「Kiichi、偉大な仕事をするためには優秀なポスドクが必要なんだ」と彼に言われたこと。

もう一つはぼくらのFIH-1の論文が出てしばらくした頃、研究室のぼくのベンチまで(彼がベンチまでやってくるのはとっても珍しい)満面の笑顔で「RatcllifeがFIH-1のクローンを欲しいといってきたよ」とわざわざいいに来たことです。

 

学会で来日したときには京大の麻酔科の比叡山が見える研究室を訪問してくれました。

その折りに「いつまで麻酔なんてやっているんだと。とっとと止めて研究に専念しろ」と言われたことも思い出しました。

 

Semenza研はHIF-1のcDNA cloning, HIF-1aのノックアウトマウスの報告において世界での先陣をきり、酸素分圧のセンシング機構でもFIH-1のcloningに成功していたのでこの分野でGreggが受賞するのは当然です。

 

彼自身が執筆したEssayが読めるようになっています。(参照)

Greggらしい文章ですね。

知っていたエピソードもあるし始めて聞いたネタもあります。

このビデオのGreggがいる場所は彼のオフィスです。BaltimoreのInner Harborが一望できる素晴らしい場所です。以前のオフィスとはまったく似ていません。 彼の部屋の片隅にMac SE/30が置いてあります。聞いたら初めてR01 grantが当たった時に使っていた記念の品なのだそうです。

 

この賞の受賞者は来月早々に発表されるNobel賞を受賞することが多いそうです。こっちももらってlab. memberがre-unionできたら幸せだろうな。

 

Google Schalorの統計に寄ればぼくはGreggとの共著論文ランキングの10位です。

 

ぼくらが20世紀の後半から21世紀の初頭にかけて行っていた研究がLasker賞に結実したことはとても嬉しいです。

今回の受賞理由に挙がられている研究は1990年代にほぼ終わっていてHIFa水酸化酵素の報告もPHD, FIH-1とも2001年です。2001年にHIF活性化調節のセントラルドクマが定立されたのです。

ぼくらがその当時やっていたことは生物学上の重要課題であった、その課題の解決に貢献ができたということでぼくは満足です。

極東の一麻酔科医ができる最高の貢献だったと自負しています。

 

 

故森健次郎先生が大学院の研究を淀井淳司先生の研究室でやれとぼくに命令しなかったら、またその後ぼくにお前は日本にいたらダメになると言ってくれなかったらぼくがGreggの研究室に参加することはなかったし、研究もとっくの昔に止めていたと思います。

 

 


Lacker賞関連の紹介論文

Lacker賞関連の論文をいくつか紹介します。 いわゆる超一流誌に発表された論文で全てfreeで読むことができます

NEJM

The Hypoxia Response Pathways — Hats Off!

M. Celeste Simon, Ph.D.

 

JAMA

Pathways for Oxygen Regulation and Homeostasis

William G. Kaelin Jr; Peter J. Ratcliffe; Gregg L. Semenza

3人の共著!?論文です。

 

JCIには

William Kaelin, Peter Ratcliffe, and Gregg Semenza receive the 2016 Albert Lasker Basic Medical Research Award

Jillian H. Hurst

 

Cellは豪華版です。

Into Thin Air: How We Sense and Respond to Hypoxia.

Thompson CB.

に加えて

Karen氏とRatcllife氏の対談的インタビュー

Semenza氏のessay

 

今回の,受賞理由は1990年代の研究に基づきます。

HIF-1研究の初期から酸素分圧の低下に依存しないHIF-1の活性化の研究が続いていてこのラインの研究ががん研究とマージしたことがHIF-1の学問がblakeした理由だと理解しています。

PHDのcloningの論文が発表されたときもGreggはアレが本当の低酸素のセンサー分子であるかどうかは解らないという感想を述べていました。

PHD(PHD2)の発現はHIF-1により亢進することが知られていてそのような性質の分子を「センサー」とゥ呼ぶのが適切か解らないという意見です。まあ格好はいいわけですが。

それを割り引いてもHIF-1活性化のbona fide hypoxia senserの実体はいまだ藪の中だとぼくは考えています。

 

またぼくはこの論文この論文をすごく評価しています。


第14回がんとハイポキシア研究会での講演

第14回がんとハイポキシア研究会が11/4から岐阜市で開催されます。

二日目の午前中に20分ほどフリートーク風に今年のラスカー賞をきっかけに低酸素研究のいままでを話すことになっています (2016 年アルバート・ラスカー基礎医学賞を記念して)。

【追記】”Oxygen, Hypoxia and Beyond“として使ったスライドをfigureshareに上げてあります。(参照)


この分野ですがラスカー賞の対象になるくらいには発展していますのでおびただしい数の総説が今まで出版されています。

それをなぞるのでは面白くないのでちょっとひねった話をしたいと思っています。

ぼくの話を聞いていただくためには特別な予備知識は必要はないのですが以下の論文のアブストラクトだけでもながめておくとより楽しんでいただけるのではないかと思っています。

ラスカー賞の対象となった研究は1990年から10年くらいの期間に行われた研究が対象となっていますがその間に出版された論文を選んでみました。

どの論文もすでに古典となっている論文です。

読んでいない論文があればこれを機会に熟読玩味してみてください。

なお論文の頭に#をつけた論文はLasker財団のページで受賞理由で取り上げられているものです。

論文はpubmedにリンクしてあります。

EPO遺伝子の発現誘導

The regulated expression of erythropoietin by two human hepatoma cell lines. Goldberg MA, Glass GA, Cunningham JM, Bunn HF. Proc Natl Acad Sci U S A. 1987 Nov;84(22):7972-6. PMID: 2825172

Regulation of the erythropoietin gene: evidence that the oxygen sensor is a heme protein. Goldberg MA, Dunning SP, Bunn HF. Science. 1988 Dec 9;242(4884):1412-5. PMID: 2849206

Regulatory elements of the erythropoietin gene. Imagawa S, Goldberg MA, Doweiko J, Bunn HF. Blood. 1991 Jan 15;77(2):278-85. PMID: 1985694

Erythropoietin mRNA levels are governed by both the rate of gene transcription and posttranscriptional events. Goldberg MA, Gaut CC, Bunn HF. Blood. 1991 Jan 15;77(2):271-7. PMID: 1985693

この4篇に代表されるように初期にBunn氏の研究室が重要な役割を果たしました。 肝臓がん由来の細胞株でEPOの誘導が観察されること,EPO遺伝子上にRegulatory elementsが存在することなど後のHIF-1単離につながる重要な発見を報告しています。

 

追走するSemenza研

これを追いかけるようにまた並走してSemensa氏の研究室から次々に論文が出ていきました。

Polycythemia in transgenic mice expressing the human erythropoietin gene. Semenza GL, Traystman MD, Gearhart JD, Antonarakis SE. Proc Natl Acad Sci U S A. 1989 Apr;86(7):2301-5. PMID: 2928334

Human erythropoietin gene expression in transgenic mice: multiple transcription initiation sites and cis-acting regulatory elements. Semenza GL, Dureza RC, Traystman MD, Gearhart JD, Antonarakis SE. Mol Cell Biol. 1990 Mar;10(3):930-8. PMID: 2304468

Hypoxia-inducible nuclear factors bind to an enhancer element located 3′ to the human erythropoietin gene. Semenza GL, Nejfelt MK, Chi SM, Antonarakis SE. Proc Natl Acad Sci U S A. 1991 Jul 1;88(13):5680-4. PMID: 2062846

A nuclear factor induced by hypoxia via de novo protein synthesis binds to the human erythropoietin gene enhancer at a site required for transcriptional activation. Semenza GL, Wang GL. Mol Cell Biol. 1992

Cell-type-specific and hypoxia-inducible expression of the human erythropoietin gene in transgenic mice. Semenza GL, Koury ST, Nejfelt MK, Gearhart JD, Antonarakis SE. Proc Natl Acad Sci U S A. 1991 Oct 1;88(19):8725-9. PMID: 1924331

 

HIF-1の登場

General involvement of hypoxia-inducible factor 1 in transcriptional response to hypoxia. Wang GL, Semenza GL. Proc Natl Acad Sci U S A. 1993 May 1;90(9):4304-8. PMID: 8387214

Transcriptional regulation of genes encoding glycolytic enzymes by hypoxia-inducible factor 1. Semenza GL, Roth PH, Fang HM, Wang GL. J Biol Chem. 1994 Sep 23;269(38):23757-63. PMID: 8089148

1995年にはHIF-1の蛋白質の同定とcDNA単離が報告されました。

Purification and characterization of hypoxia-inducible factor 1. Wang GL, Semenza GL. J Biol Chem. 1995 Jan 20;270(3):1230-7. PMID: 7836384

Hypoxia-inducible factor 1 is a basic-helix-loop-helix-PAS heterodimer regulated by cellular O2 tension. Wang GL1, Jiang BH, Rue EA, Semenza GL. Proc Natl Acad Sci U S A. 1995 Jun 6;92(12):5510-4. PMID: 7539918

HIF-1のcDNA cloningの後の最も大きな問題はその活性化の分子機構の解明となりました。 活性化と一言にいっても当時はその意味合いも曖昧でした。 PNASの論文ではmRNAの発現をNorther blotで解析して1%O2, CoCl2, DFX処理でmRNAが「誘導」されるという実験結果が提示されています。 HIF-1a HIF-1bに対する抗体を使ったデータはありますがHIF-1aに加えてHIF-1bの蛋白質発現も「誘導」されるという結果が提示されています。 Hep3Bを用いた実験結果ですのでこれは現在流通しているコンセンサスとは異なります。

そこの後の解析で少なくとも細胞株ではHIF-1a, HIF-1bともmRNAは酸素分圧が変化に応答して発現が大きく変化すること言うことはないが,HIF-1aの蛋白質の発現は酸素分圧の低下に相関して増大することが解ってきました。

Hypoxia-inducible factor 1 levels vary exponentially over a physiologically relevant range of O2 tension. Jiang BH, Semenza GL, Bauer C, Marti HH. Am J Physiol. 1996 Oct;271(4 Pt 1):C1172-80. PMID: 8897823

そうこうしているうちに1997年にはHIF-1aが酸素分圧依存のユビキチン化を受けていて低酸素環境下では蛋白質が安定化するという機序で細胞内で蓄積するという報告が相次ぎました。

 

HIF-1の酸素分圧依存性の活性化

Hypoxia-inducible factor 1alpha (HIF-1alpha) protein is rapidly degraded by the ubiquitin-proteasome system under normoxic conditions. Its stabilization by hypoxia depends on redox-induced changes. Salceda S, Caro J. J Biol Chem. 1997 Sep 5;272(36):22642-7. PMID: 9278421

Regulation of hypoxia-inducible factor 1alpha is mediated by an O2-dependent degradation domain via the ubiquitin-proteasome pathway. Huang LE, Gu J, Schau M, Bunn HF. Proc Natl Acad Sci U S A. 1998 Jul 7;95(14):7987-92. PMID: 9653127

Regulation of the hypoxia-inducible transcription factor 1alpha by the ubiquitin-proteasome pathway. Kallio PJ, Wilson WJ, O’Brien S, Makino Y, Poellinger L. J Biol Chem. 1999 Mar 5;274(10):6519-25. PMID: 10037745

1999年にはこのユビキチン化にVHL-E3 ligaseの構成分子-が重要な役割を果たしているという一連の報告がされました。ここら辺からKaelin氏, Ratcliffe氏が大きな役割を果たすようになってきました。

The tumour suppressor protein VHL targets hypoxia-inducible factors for oxygen-dependent proteolysis. Maxwell PH, Wiesener MS, Chang GW, Clifford SC, Vaux EC, Cockman ME, Wykoff CC, Pugh CW, Maher ER, Ratcliffe PJ. Nature. 1999 May 20;399(6733):271-5. PMID: 10353251

Ubiquitination of hypoxia-inducible factor requires direct binding to the beta-domain of the von Hippel-Lindau protein. Ohh M, Park CW, Ivan M, Hoffman MA, Kim TY, Huang LE, Pavletich N, Chau V, Kaelin WG. Nat Cell Biol. 2000 Jul;2(7):423-7. PMID: 10878807

Mechanism of regulation of the hypoxia-inducible factor-1 alpha by the von Hippel-Lindau tumor suppressor protein. Tanimoto K, Makino Y, Pereira T, Poellinger L. EMBO J. 2000 Aug 15;19(16):4298-309. PMID: 10944113

2001年は当たり年でした。 VHLを含むユビキチン化システムのHIF-1aへの指向性がHIF-1aのプロリン残基の水酸化に依存しているという論文がScieceにKaelin氏とRatcliffe氏のグループからback-to-backで立て続けにでてCellにはその水酸化を担う酸素添加酵素のcDNA cloningに成功した世という論文がRatcliffe氏の研究室から報告されたのです。

HIFalpha targeted for VHL-mediated destruction by proline hydroxylation: implications for O2 sensing. Ivan M, Kondo K, Yang H, Kim W, Valiando J, Ohh M, Salic A, Asara JM, Lane WS, Kaelin WG Jr. Science. 2001 Apr 20;292(5516):464-8. PMID: 11292862

Targeting of HIF-alpha to the von Hippel-Lindau ubiquitylation complex by O2-regulated prolyl hydroxylation. Jaakkola P, Mole DR, Tian YM, Wilson MI, Gielbert J, Gaskell SJ, von Kriegsheim A, Hebestreit HF, Mukherji M, Schofield CJ, Maxwell PH, Pugh CW, Ratcliffe PJ. Science. 2001 Apr 20;292(5516):468-72. PMID: 11292861

 

HIF-1aプロリン残基を水酸化する酸素添加酵素の同定

C. elegans EGL-9 and mammalian homologs define a family of dioxygenases that regulate HIF by prolyl hydroxylation. Epstein AC, Gleadle JM, McNeill LA, Hewitson KS, O’Rourke J, Mole DR, Mukherji M, Metzen E, Wilson MI, Dhanda A, Tian YM, Masson N, Hamilton DL, Jaakkola P, Barstead R, Hodgkin J, Maxwell PH, Pugh CW, Schofield CJ, Ratcliffe PJ. Cell. 2001 Oct 5;107(1):43-54. PMID: 11595184

 

実はぼくらのFIH-1のcDNA cloingもひっそりと2001年に報告したのですがこれがもう一つの水酸化酵素だという報告は次の年になされました。

これで酸素分圧依存性のHIF-1a蛋白質の安定性とHIF-1aの転写活性化を説明するセントラルドグマが定立されたのです。

 

日陰者のFIH-1

FIH-1: a novel protein that interacts with HIF-1alpha and VHL to mediate repression of HIF-1 transcriptional activity. Mahon PC, Hirota K, Semenza GL. Genes Dev. 2001 Oct 15;15(20):2675-86. PMID: 11641274

FIH-1 is an asparaginyl hydroxylase enzyme that regulates the transcriptional activity of hypoxia-inducible factor. Lando D, Peet DJ, Gorman JJ, Whelan DA, Whitelaw ML, Bruick RK. Genes Dev. 2002 Jun 15;16(12):1466-71. PMID: 12080085


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恒例ですので今年も「ハイポキシア生物学の2015年を振り返って」をやります。


~メトリクス~

pubmedで”HIF[TIAB] and 2015[DP]” (2015 12/28)と検索窓にと検索窓に入力すると1712篇の論文があると返ってきます。HIF[TIAB] and 2014[DP]では1705篇です。

“hypoxia[TIAB] and 2014[DP]” では6081篇だったのが”hypoxia[TIAB] and 2015[DP] “(2015 12/28)では6207篇です。毎年これだけの論文が安定的に出ているという事に驚きます。

ちなみにコントロールの”iPS[TIAB] and 2014[DP]”では728篇で”iPS[TIAB] and 2015[DP]” (2015 12/28)では724篇でした。

 


~注目論文~

論文のチェックを毎週行っています。 まずタイトルを読んでこれはと思うとアブストラクトまで読みます。そこから図までチェックする論文は毎週20篇くらいはあると思います。 そこから論文を印刷して赤ペンでチェックしながら全部読んで引用文献もチェックした論文にはPapersで★を五つの満点をつけます。

数が多くなってはシグナルとしての効果が薄くなるのであまりたくさんの論文には★★★★★をつけません。

以下★★★★★の論文の一部を列挙してみます。

 

#1 Hypoxia Signaling Cascade for Erythropoietin Production in Hepatocytes. MCB 鈴木さんの研究室からの論文。

#2 Glutathione and thioredoxin antioxidant pathways synergize to drive cancer initiation and progression. Cancer Cell 一種のリバイバルですね

#3 Insulator dysfunction and oncogene activation in IDH mutant gliomas Nature


ミトコンドリア関連

#4 Supporting Aspartate Biosynthesis Is an Essential Function of Respiration in Proliferating Cells Cell

#5 An Essential Role of the Mitochondrial Electron Transport Chain in Cell Proliferation Is to Enable Aspartate Synthesis. Cell

#6 Metabolic rescue in pluripotent cells from patients with mtDNA disease. Nature

#7 Mitochondrial reticulum for cellular energy distribution in muscle. Nature

#3 “にはちょっと驚きました。

“#4″ ,”#5″ は最近のぼくの研究の興味もあって興味をもって精読しました。

 

#8 A lactate-induced response to hypoxia. Cell 

#9 Ferritin-Mediated Iron Sequestration Stabilizes Hypoxia-Inducible Factor-1α upon LPS Activation in the Presence of Ample Oxygen. Cell Reports 

ちょっとホントかねとも思いましたがおもしろいことにはおもしろい。

 

最後に

#10 Hypoxia fate mapping identifies cycling cardiomyocytes in the adult heart. Nature

#11 Integrated molecular analysis of adult T cell leukemia/lymphoma. Nature Genetics

以下の二つとくに#11 “には脱帽です。


今年一年ぼくたちのjournal clubで読んだ論文をまとめて見ました。

http://togetter.com/li/912111

 

もう死んでしまった師匠は研究はウシの涎の様なものだ、つまりキリがないのだと常々話していました。

ぼくは低酸素研究の以前にはthioredoxinという小さいー分子量が小さいという意味ですー蛋白質の研究をしていました。今まで細々としか続けてこなかったthioredoxin研究をぼくのメインテーマに据えて行こうと思っています。

 

2016年もしばらくはこのブログは続けるつもりです。

 

最後に

<blockquote class=”twitter-tweet” lang=”ja”><p lang=”ja” dir=”ltr”>なんだかんだいって、学位論文を出すことが大学院生に課せられているものです。これは何を意味するかというと、「オリジナル」を生み出せ、ということです。自分の専門分野については、指導教授よりも詳しくなれということ。大学院の様相はもの凄い勢いで変転していますが、この根幹は変わりません。</p>&mdash; 丸島和洋 (@kazumaru_cf) <a href=”https://twitter.com/kazumaru_cf/status/682257610892955649″>2015, 12 30</a></blockquote>

<script async src=”//platform.twitter.com/widgets.js” charset=”utf-8″></script>

だってさ。


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恒例ですので今年も「ハイポキシア生物学の2014年を振り返って」をやります。

メトリクス

pubmedで「HIF[TIAB] and 2014[DP]」と検索窓に入力する(as of 2013/12/29)と1601篇の論文があると返ってきます。「HIF[TIAB] and 2013[DP]」では1487篇です。

「hypoxia[TIAB] and 2013[DP]」では5596篇でhypoxia[TIAB] and 2013[DP]では5317篇です。「高度成長」は終わりましたが、低酸素関連の研究の堅調に推移しています。 ちなみにiPS[TIAB] and 2013[DP]では683篇でした。iPS[TIAB] and 2013[DP]では720篇でしたのですでにマイナス成長です。二の矢、三の矢が必要なのでしょうか?

今年も去年の傾向が続いていて、すでに「代謝」「炎症」分野と酸素代謝の関連の論文が目白押しだったと思います。

論文のチェックを毎週行っています。 まずタイトルを読んでこれはと思うとアブストラクトまで読みます。そこから図までチェックする論文は毎週20篇くらいはあると思います。 そこから論文を印刷して赤ペンでチェックしながら全部読んで引用文献もチェックした論文にはPapersで★を五つの満点をつけます。この基準を満たしたHIF関連の論文は15篇くらいありました。

5つの未解決課題

がんとハイポキシア研究会も今年で12回を数えるまでになりました。 第一回は京大会館の狭い部屋で極こじんまりと行ったのですが続きました。 来年は三島で開催です。

この研究会の10回目の会「低酸素研究の10年」というタイトルのシンポジウムを行いました。 世話人が会の10年間を振り返るといった趣旨で企画しました。

ぼくは「hypoxia-inducible factorの20年と5つの未解決課題」というタイトルで話をしました。

そのおりに挙げた「5つ」の未解決課題は以下の通りです。

  • HIF-1/HIF-2問題
  • HIF-aの翻訳制御
  • HIF-aの翻訳後修飾とその意義
  • 低酸素センサーの実体
  • 細胞の低酸素反応と生体の低酸素応答

自分が今までこの分野の研究を行ってきて不思議だなと思うけど明確な答えはまだないよね、と思った課題です。

低酸素センサーといっても単一ではありませんのでユニバーサルなセンサーはないとぼくは思っています。

反応曲線

HIFの活性化に限っても諸説がいまだに存在してそれぞれにそれなりのデータの積み上げが存在します。

HIFa水酸化酵素活性の酸素分圧依存性の活性調節を軸とした”セントラルドグマ”といわれる原理は存在してこれはいろんな総説でも取り上げられますがこれで全てを説明できるかどうかは未だ未確定です。

セントラルドグマ.jpg

HIFの活性化は低酸素と同義ではありませんHIF活性化機序の説明は今ではここまで拡張しています。

全貌

「細胞の低酸素反応と生体の低酸素応答」 ということで説明したのは

Epidermal sensing of oxygen is essential for systemic hypoxic response” の論文の内容です。 説明はしませんが生体の低酸素応答をマウスで説明した芸術的な論文です。

それに加えてぼくらの研究も紹介しました。

General anesthetics inhibit erythropoietin induction under hypoxic conditions in the mouse brain“と

The volatile anesthetic isoflurane differentially suppresses the induction of erythropoietin synthesis elicited by acute anemia and systemic hypoxemia in mice in an hypoxia-inducible factor-2-dependent manner” の二つの論文です。

少し説明しましょう。

マウスを10%程度の低酸素環境で飼育すると4時間もするとerythropoietin (EPO)の血中濃度が上昇します。脳、肝臓、腎臓を取り出してEPOのmRNAの発現を調べると脳と腎臓で発現が上昇していることが解ります。その実験系に揮発性吸入麻酔薬であるisofluraneで組み込みます。するとEPOの血中濃度の上昇が抑制されます。mRNAの発現を調べると脳でのEPO mRNAの発現誘導が抑制されています。腎臓のmRNAの上昇は有意な変化がありません。 一方脱血モデル(脱血:注射器で血液を吸引します。するとヘモグロビンの濃度が下がり酸素運搬能が低下します)で同じ事を調べます。脱血をしてやはり4時間程度でEPOの血中濃度が上がります。脱血でも脳と腎臓でのEPO mRNAの発現が上がりますが揮発性吸入麻酔薬isofluraneはこのうちの腎臓でのmRNA誘導だけを抑制します。

この様な細胞の低酸素反応だけでは理解できなことへの解析は未だ不十分です。 ぼくはこの現象はすごく面白いと思っていてもう少し深く調べたいものだとは思っています。

麻酔・集中治療の世界でも臓器での酸素の需給バランスを問題にすることがありますが、寄って立つ理論的な背景は脆弱です。 臨床の学会でエラい先生がお話になるような御説はある意味明解ですがいったいどこにそんな根拠があるのだというような話が多く、乳酸値が高いから臓器血流障害があるなどの言い方も臨床現場ではいまだに通用しています。 もっともっと学問が進展するべきだとは思っています。

「5つの未解決課題」は「10の未解決課題」として準備していました。しかし、時間の辻褄があわない事が解ったので5つに減らしたのです。

残りの5つは

  • 核移行
  • 酸素分圧の測定
  • HIFでないHIF-a
  • epigenetic regulation
  • HIFで発現が抑制される遺伝子群

です。

HIF-1aは低酸素環境下で核移行を起こすことが知られていてこの現象の分子機序の解明はHIF-1がクローニングされた時から未解決な大きな課題の一つでした。 この分野で今までで一番いい論文は “Mechanism of regulation of the hypoxia-inducible factor-1 alpha by the von Hippel-Lindau tumor suppressor protein

いい論文です。読んだ回数は10回はゆうに越えます。 しかしこの論文も核移行がメインテーマの論文ではありません。 この問題は、いまだに未解決だとぼくは考えています。

低酸素下での遺伝子発現の変化とHIF-1aの持続活性化型の強制発現による遺伝子変化を別々に検討してその「積」をとればそれは低酸素による遺伝子応答のうちのHIF-1によるものが同定できるという単純な論理に基づいた論文があります。

Transcriptional regulation of vascular endothelial cell responses to hypoxia by HIF-1

AdCA5というのはぼくが作った持続活性化型のHIF-1aを発現させるアデノウイスルベクターです。”5″というのは5つ目のプラーク由来で一番性能が良かったものです。 この論文で解ることはHIF-1の活性化で発現が抑制される遺伝子が誘導を受ける遺伝子より多くあるということです。

CA5

抑制を受ける遺伝子が低酸素応答でどのような意味を持っているかはいまだに解明されているとはいえません。

以上の課題が全部明らかになったら-誰の手によっても-ぼくはこれ以上研究を続ける意味がなくなりますのでその時点でこの研究分野からは撤退しようと思っています。


大学院の先生方に是非とも読んでもらいたい論文を二つあげておきます。

How to choose a good scientific problem” すごくよい文章です。

役立たずな知識の有益性” これは去年詳しく解説しました。


先週末STAP問題と東大の分生研の加藤氏の研究室の研究不正問題の報告書がでました。 後者の問題は根が深く日本独特の問題ではなく世界中のどこでも現在進行形で起きている問題です。 ハッキリいって様々な防止策は何の意味もないでしょう。

たった一つの解決法は

という意見に完全に同意します。

という訳でハイポキシア生物学の回顧とはいえないエントリーとなりましたが今年はこれでお終いです。

来年もこのブログを続けると思います。よろしく。

【追記】
今年一年ぼくたちのjournal clubで読んだ論文をまとめて見ました。
ここからどうぞ。


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