放牧か飼育か

On 2014/4/13 日曜日, in hypoxia reseacrh, by bodyhacker

10日ほど前から風邪なのか花粉症か区別の付かないような症状が出ていたのですがここにきてようやく寛解状態に向かっている感じがしてきました。 とはいえどうもスッキリしません。

「脳の中の時間旅行 : なぜ時間はワープするのか」 に書いてあったのですが体温が高くなると時間が早くゆっくり進む(と感じる)のだそうです。

言われてみるとそんな気もします。

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再現するのって結構むずかしい

今ボストンにいる甲斐さんの論文 The volatile anesthetic isoflurane differentially suppresses the induction of erythropoietin synthesis elicited by acute anemia and systemic hypoxemia in mice in an hypoxia-inducible factor-2-dependent manner がEuropean Journal of Pharmacologyにアクセプトされて出版されました。(参照

結構な難産でした。

理由は簡単で査読者を簡単に納得させるためにはデータ量が足りなかったからです。現象はすごくおもしろいし十分な再現性があると思いますが論文として査読を経るとなるといろいろと指摘されることになります。 査読コメントにはトンデモないものもありEditorに抗議をしたりしてやっとアクセプトです。最近は一回くらいrejectされても査読の問題点を取り合えずeditorに送ってみるくらいにはずうずうしくなりました。大抵の場合(といってもぼくのレベルの場合はですけど)はもう一度査読に廻してくれます。

生体が低酸素に暴露されると血清中のエリスロポエチンの濃度が上昇します。甲斐さんの論文の前に田中さんが低酸素血症では脳と腎臓でEPOが誘導されて同時に血清中のEPOの濃度がおそらくHIF-2a依存的に上昇するのではないかという論文を発表していました。またこの上昇は揮発性吸入麻酔薬イソフルランに感受性です。つまりイソフルランの吸入でEPOの上昇は抑制されます。しかしこの抑制は脳でのみ観察されて腎臓でのEPOのmRNA誘導は抑制されませんでした。

今回は脱血により貧血状態を作った場合にどうなるのかという検討を行いました。マウスの眼窩から脱血を行うとヘモグロビンが低下します。 貧血を誘導しても低酸素血症とほぼ同じような時間的なプロフィールでEPOの上昇が観察されます。しかし低酸素血症の場合と異なりこの上昇は腎臓でのみ観察されて脳では観察されません。さらにイソフルランは脱血モデルは腎臓でのEPO mRNAの上昇を抑制しました。 つまり組織低酸素をもたらす低酸素血症と脱血による貧血ではEPO誘導の機序が異なりまたイソフルランへの感受性にも違いがあるということがわかったということです。

簡単な実験なのですが結構おもしろい事を主張しているとぼくは思っています。

このような実験を進めたのには訳があります。

すごく以前にぼくが留学する前に一緒に研究をしていた伊藤さんという大学院生がいました。今は高松の病院で臨床医として活躍しています。ぼくと研究をした初めての大学院です。 彼と行った実験結果をまとめた論文があります。

Reversible inhibition of hypoxia-inducible factor 1 activation by exposure of hypoxic cells to the volatile anesthetic halothane.参照

つまり揮発性吸入麻酔薬のhalothaneは培養細胞 (Hep3B細胞)では低酸素誘導性のHIF-1の活性化を抑制するという発見です。 単純な実験ですが何の問題も無くアクセプトされました。 その後-といってもぼくらの論文の5年後ーにAnesthesiologysという雑誌に Up-regulation of hypoxia inducible factor 1alpha by isoflurane in Hep3B cells. という論文が掲載されました。

ぼくらはhalothaneという薬剤を使いましたがこっちは同じ揮発性吸入麻酔薬ですがisofluraneを使っています。 ぼくらは低酸素環境下でのHIF-1の活性化への影響に主眼を置きましたが、こちらの論文では20%酸素環境下でのisofluraneのHIF-1活性化に与える影響を調べたものです。

実はぼくはisofluraneの影響もそれまでに調べたことはありましたがHIF-1の活性化を観察することはありませんでした。

培養細胞に麻酔薬に暴露するだけの簡単な実験ですから間違えようがないともいえるのですが、この齟齬の理由は定かではありません。

Anesthesiology誌の論文はぼくが査読したのではありませんが査読がぼくに廻ったとしてもぼくらの実験結果と違うという理由でreject相当とは判断でき無いくらい小さくまとまった論文でした。

何時か動物の生体内でこの問題に決着をつけたいということはすっと思っていました。 そこに田中先生が来てくれたので彼と相談して研究を始めたことがまとまったものが紹介した

General anesthetics inhibit erythropoietin induction under hypoxic conditions in the mouse brain. です。

この実験でハッキリしたことは空気を吸入して生きているマウスをisofluraneに暴露してもHIF-1やHIF-2の活性化は観察できないうことです。 そして今回の甲斐さんの論文です。 これらの研究でも実は行っていない検討がいくつかあるのですがぼくとしてかなり満足しました。

これに限らず、一見矛盾する研究結果がいろんな雑誌で発表されています。

人によっては明らかに自分では再現できない観察結果を論文にする人もいますがそうで無い場合もいくらでもあります。 なので「再現性」の問題は難問だとぼくは思っています。

少なくとも「著者しか再現できないからその研究の主張が「間違え」だとか「意味が無い」」という言い方にはぼくは同意できません。


放牧と飼育

@enodon さんのブログエントリー「放牧ラボとブロイラーラボ~人材育成の流儀」 を読みました。

私がかつて所属した浅島誠先生の研究室も「放牧ラボ(研究室)」でした。もちろん研究室のテーマはありましたが、院生が必死に考え、先輩たちから方法を聞いたり、どこかに学びに行ったりして研究していました。論文を書くのも、エディターとのやり取りも、院生主導です。

ぼくの院生時代の研究室もこんな感じでした。

という訳でぼくは4年(医者は修士課程が無く直接博士課程に入ってそのかわりに4年です)で学位は取れませんでした。 でも今となってみればこういう研究室だったので今の自分があると思っています。

一度はぼくを破門した当時の麻酔科の教授には「大学院でがつがつ研究成果を上げる必要はない。お前みたいな凡庸な人間は努力して10年くらいの後に自分のテーマといえるものが見つかればそれで十分である。」と言われました。その観点からは「放牧上等」ということでしょうか。

そうなると、悠長に院生の自立を待つ時間がありません。テーマを与え、こうやれ、と細かく指示する。医学系の研究室に多いと思いますが、院生は実験データだけ出すことを求められ、論文は書くことに慣れている教授が書いてしまう。そのほうが効率がよいわけです。院生にとっても、早く論文が出ますし、影響力の高い論文を出すこともできる。次の職を探す上で有利になります。

ぼくの留学先はこんな感じだったと思います。

ポスドク、テクニシャンはすごいストレスを感じていたと思います。週に一回のデータ検討会が終わと一週間が終わった気がするとポスドクの一人が話していました。木曜日にやっていたのですが彼にとって金曜日は休息日なのです。

論文もPIのおじさん(今ではあんなに有名になりましたがぼくが合流したときはprofessorではありませんでした)がぜんぶ書いてしまいます。余所のPIにきいても素晴らしい英語を書くと言われていました。Endnoteも使わずあっという間に論文を仕上げてしまうのです。

ぼくも自分のアイデアで行った実験は自分で論文を書きましたがPIの仕事は彼が論文を書きました。 この経験からも得るところはありました。

ちなみにさっきの教授には留学するときに「米国で一旗揚げようなどと妙なことを考えてはいけない。自分の道楽(研究の事)に家族を巻き込むなどの愚をおかしてはいけない。とにかくちゃんと食べて元気で帰国するように。お金が無くなったら牛肉を食べて牛乳を飲んでいればなんとかなる。」と言われました。

別に何の成果もなくとも「骨は拾ってやる」という意味だったのでしょうか。すでに退官していたのですけど…

というわけでこんなtweetをしたのですが若い人中心にちょいウケしたようです。

(明かな誤字の修正をしました)

 


某問題は笹井さんが出てきて話すそうですね。

ぼくとしては実は

 

 

と思っています。そして「何か」が何か知りたいと思っています。

御大も

 

とtweetしています。

実は多くの人に取って笹井さんの会見は先週の「某キャンペーン」より重要な「意味」を持つと思います。

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写真の左奥の建物はあの「新阪急ホテル」です。こんな観点から会場に選ばれていたのですね。

文藝春秋の5月号

特集 は

立花 隆 生命の謎に挑む

「寿命、容貌、知能、運動神経……運命は変えられるか」

です。

三編の対談

「百万人ゲノム計画」で医療の常識が変わる
(産業技術総合研究所フェロー)浅島 誠

人類の起源をたどる「ゲノムの旅」
(東京大学教授)菅野純夫

がんの遺伝子から特効薬を作る
(自治医科大学学長)永井良三

中山先生による未来予想

人間が“第二の創造主”になるとき  (九州大学教授)中山敬一

に加えて

私たち、遺伝子検査を受けてみました   阿川佐和子×檀 ふみ×冨田 勝

という鼎談で構成されています。

「私たち、遺伝子検査を受けてみました」は立ち読みでもよいので読みましょう。


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一緒にやっていた田中先生の論文が”PLoS ONE”にアクセプトされました。ヤッホー!!
議論の書き直しなどで結構時間が掛かった様な気もしますが最終的には収まってよかったです。

この論文では結構重要な事を主張しているとぼくらは思っているのですが解らない人には解らないようです。

PLoS ONEですから一旦出版されれば無料で読むことができます。

General anesthetics inhibit erythropoietin induction under hypoxic conditions in the mouse brain

Background: Erythropoietin (EPO), originally identified as a hematopoietic growth factor produced in the kidney and fetal liver, is also endogenously expressed in the central nervous system (CNS). EPO in the CNS, mainly produced in astrocytes, is induced under hypoxic conditions in a hypoxia-inducible factor (HIF)-dependent manner and plays a dominant role in neuroprotection and neurogenesis. We investigated the effect of general anesthetics on EPO expression in the mouse brain and primary cultured astrocytes.

Methodology/Principal findings: BALB/c mice were exposed to 10% oxygen with isoflurane at various concentrations (0.10-1.0%). Expression of EPO mRNA in the brain was studied, and the effects of sevoflurane, halothane, nitrous oxide, pentobarbital, ketamine, and propofol were investigated. In addition, expression of HIF- 2α protein was studied by immunoblotting. Hypoxia-induced EPO mRNA expression in the brain was significantly suppressed by isoflurane in a concentration-dependent manner. A similar effect was confirmed for all other general anesthetics. Hypoxia- inducible expression of HIF-2α protein was also significantly suppressed with isoflurane. In the experiments using primary cultured astrocytes, isoflurane, pentobarbital, and ketamine suppressed hypoxia-inducible expression of HIF-2α protein and EPO mRNA.

Conclusions/Significance: Taken together, our results indicate that general anesthetics suppress activation of HIF-2 and inhibit hypoxia-induced EPO upregulation in the mouse brain through a direct effect on astrocytes.

このシリーズはこれに続いて最低二報出すつもりです。

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少し前に”Antioxidants & Redox Signaling”に甲斐先生の論文が出たのですが紹介していませんでした。

Hydrogen Sulfide inhibits hypoxia- but not Anoxia-induced hypoxia-inducible factor 1 activation in a von Hippel-Lindau- and mitochondria-dependent manner

Antioxidants & Redox Signaling

Abstract

Aims: In addition to nitric oxide and carbon monoxide, hydrogen sulfide (H(2)S) is an endogenously synthesized gaseous molecule that acts as an important signaling molecule in the living body. Transcription factor hypoxia-inducible factor 1 (HIF-1) is known to respond to intracellular reduced oxygen (O(2)) availability, which is regulated by an elaborate balance between O(2) supply and demand. However, the effect of H(2)S on HIF-1 activity under hypoxic conditions is largely unknown in mammalian cells. In this study, we tried to elucidate the effect of H(2)S on hypoxia-induced HIF-1 activation adopting cultured cells and mice.
Results: The H(2)S donors sodium hydrosulfide and sodium sulfide in pharmacological concentrations reversibly reduced cellular O(2) consumption and inhibited hypoxia- but not anoxia-induced HIF-1α protein accumulation and expression of genes downstream of HIF-1 in established cell lines. H(2)S did not affect HIF-1 activation induced by the HIF-α hydroxylases inhibitors desferrioxamine or CoCl(2). Experimental evidence adopting von Hippel-Lindau (VHL)- or mitochondria-deficient cells indicated that H(2)S did not affect neosynthesis of HIF-1α protein but destabilized HIF-1α in a VHL- and mitochondria-dependent manner. We also demonstrate that exogenously administered H(2)S inhibited HIF-1-dependent gene expression in mice.

Innovations: For the first time, we show that H(2)S modulates intracellular O(2) homeostasis and regulates activation of HIF-1 and the subsequent gene expression induced by hypoxia by using an in vitro system with established cell lines and an in vivo system in mice. Conclusions: We demonstrate that H(2)S inhibits hypoxia-induced HIF-1 activation in a VHL- and mitochondria-dependent manner.

硫化水素の低酸素応答への影響を調べました。島根医大の竹永先生から供与していただいた細胞が大活躍でした。


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台風がやって来ているそうですが昨日の朝5時半に家を出てからから1時間ほどしか外出していないので殆ど影響はぼくにはありません。
アパートも病院から歩いて二分だし。

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改正臓器移植法の全面施行から17日で丸1年を迎えた,のだそうです。
日本の「脳死」ってわかりにくさでは世界一だと思います。医者であっても,ここら辺の解りにくさというか非論理性に折り合いが付きにくい人はいると思います。
しかし,どうでもいいけど某外科系診療科1と某外科系診療科2は手術がんばりすぎだと思います。

週末に家内にテレビを録画するハードディスクの空き容量を増やすように云われて録画していた番組を整理しました。

NHKのプレミアムシアター マーラー没後100年記念演奏会を録画していました。
これはよかったです。
クラウディオ・アバドがベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮してマーラーの「交響曲 第10番から アダージョ」,「交響曲 “大地の歌”」を演奏するというものでした。

“大地の歌”のメゾソプラノはアンネ・ソフィー・フォン・オッターでした。
ぼくはこの人好きなんです。
アメリカにいた2001年,彼女とエルビス・コステロが組んで”For the Stars”と云うタイトルのCDを出してこれ以来彼女のクラシック音楽のCDも結構集めはじめて聴くようになったという縁です。
この”For the Stars”ですがコステロのオリジナル曲からポップスタンダードまでをカバーしたCDです。主にフォン・オッターが歌うのですが時々コステロが渋い声でからんでここらへんがバカによいのです。

すごいですね。これが1500円でitunes storeで買えてしまうんですね。

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Natureにdopingについてのエッセイが出ていました。
Sports doping: Racing just to keep up

Nature 475, 283-285 (2011) | doi:10.1038/475283a

ついでに

Current markers of the Athlete Blood Passport do not flag microdose EPO doping

EUROPEAN JOURNAL OF APPLIED PHYSIOLOGY

Screening for recombinant human erythropoietin using [Hb], reticulocytes, the OFFhr score, OFFz score and Hbz score: status of the Blood Passport

EUROPEAN JOURNAL OF APPLIED PHYSIOLOGY

あたりも読んでおくとよいと思います。

いつもながら投稿論文のやりとりほど気を遣う事は無いですね。寿命が半年くらい縮まって白髪が50本くらい増えちゃう感じです。でも,これを乗り越えないと誰にとっても何の未来も開けないしやっぱり一番重要な作業ですよ。これって自分が力んでも Editorとか素性の知れないreviewerがいるからホント疲れます。

いよいよ今日Lionですかね。


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