涼しくなってきました。

研究室ではエアコンが作動している時間が圧倒的に長いのですが、あのブーンという音が耳障りで集中できない場合があります。そのためにBoseのnoise reduction systemを内蔵しているheadphoneを持っているのですが、耳を完全に覆うすこし古い機種なので長時間の装着で耳が痛くなってしまい、一時間が限度です。

初夏と初秋の極短い期間だけエアコンのスイッチを切っても快適に過ごせる期間があります。ぼくのiMacは大変静かなのでエアコンを切って部屋を暗くして作業をしているととってもはかどると思う時があります。
芥川龍之介の小説に「戯作三昧」というのがあります。青空文庫にも収録されています。八犬伝の作者滝沢馬琴が主人公です。
終り頃の一章に以下のような節があります。長いですが引用してみましょう。

その夜の事である。

馬琴は薄暗い円行燈の光の下で、八犬伝の稿をつぎ始めた。執筆中は家内のものも、この書斎へははいつて来ない。ひつそりした部屋の中では、燈心の油を吸ふ音が、蟋蟀の声と共に、空しく夜長の寂しさを語つてゐる。

始め筆を下した時、彼の頭の中には、かすかな光のやうなものが動いてゐた。が、十行二十行と、筆が進むのに従つて、その光のやうなものは、次第に大きさを増して来る。経験上、その何であるかを知つてゐた馬琴は、注意に注意をして、筆を運んで行つた。神来の興は火と少しも変りがない。起す事を知らなければ、一度燃えても、すぐに又消えてしまふ。……

「あせるな。さうして出来る丈、深く考へろ。」

 馬琴はややもすれば走りさうな筆を警めながら、何度もかう自分に囁いた。が、頭の中にはもうさつきの星を砕いたやうなものが、川よりも早く流れてゐる。さうしてそれが刻々に力を加へて来て、否応なしに彼を押しやつてしまふ。

 彼の耳には何時か、蟋蟀の声が聞えなくなつた。彼の眼にも、円行燈のかすかな光が、今は少しも苦にならない。筆は自ら勢を生じて、一気に紙の上を辷りはじめる。彼は神人と相搏つやうな態度で、殆ど必死に書きつづけた。

頭の中の流は、丁度空を走る銀河のやうに、滾々として何処からか溢れて来る。彼はその凄じい勢を恐れながら、自分の肉体の力が万一それに耐へられなくなる場合を気づかつた。さうして、緊く筆を握りながら、何度もかう自分に呼びかけた。「根かぎり書きつづけろ。今己が書いてゐる事は、今でなければ書けない事かも知れないぞ。」しかし光の靄に似た流は、少しもその速力を緩めない。反つて目まぐるしい飛躍の中に、あらゆるものを溺らせながら、澎湃として彼を襲つて来る。彼は遂に全くその虜になつた。さうして一切を忘れながら、その流の方向に、嵐のやうな勢で筆を駆つた。

この時彼の王者のやうな眼に映つてゐたものは、利害でもなければ、愛憎でもない。まして毀誉に煩はされる心などは、とうに眼底を払つて消えてしまつた。あるのは、唯不可思議な悦びである。或は恍惚たる悲壮の感激である。この感激を知らないものに、どうして戯作三昧の心境が味到されよう。どうして戯作者の厳かな魂が理解されよう。ここにこそ「人生」は、あらゆるその残滓を洗つて、まるで新しい鉱石のやうに、美しく作者の前に、輝いてゐるではないか。……


瞬間的にこのような境地に達することができることがあります。

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京都大学ではホームカミングデイというものが設定されています。今年で5回目です。
同窓会のようなものなのですがなかなか多彩な出し物があります。
例えば、小惑星探査機はやぶさ」プロジェクトマネージャー 川口 淳一郎 先生の講演などが今年はあります。川口先生は京大の同窓生なのだそうです。
しかし笑ってしまうのは、懇親会です。
学生サークルTREVISによるチアリーディングがあるのだそうです。
なんかちょっと…ですよね。

明日からちょっと本腰をいれて取り組んで来週中には懸案を90%以上まで進めたいと思います。昨日の朝から病院滞在が40時間を超えました。revise一つ片付いたので、今日はもう帰って寝ます。

一昨日のエントリーは小林秀雄のパクリです。すみません。

モオツァルト・無常という事 (新潮文庫)

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