最年末の北摂は快晴ですが風がものすごく強いという天候です。
有明の月が明瞭に六甲山麓に残っていました。
除夜の鐘が鳴り始める前に「ハイポキシア生物学の2012年を振り返って」をやってしまいます。
メトリクス
pubmedで「HIF[TIAB] and 2011[DP]」と検索窓に入力する(2012/12/29)と1380の論文があると返ってきます。「HIF[TIAB] and 2011[DP]」では1304ですから論文数ではほとんど飽和していてきています。
「hypoxia[TIAB] and 2012[DP]」では4986でhypoxia[TIAB] and 2011[DP]では4788でした。こっちも事情はおなじですね。
この研究領域もそもそろ終わりで来年度は新ネタに進んでいくべきだという思いを強くしました。
ちなみにiPS[TIAB] and 2012[DP]では639でした。iPS研究はやはり選ばれた研究者しか取り組んでいないいまだというかこれからも特権的な研究領域で有り続けるのでしょうか。
-学会の動向
冬にKeystone symposiaがBanffで開催されました。二年に一度のこの会には参加したかったのですが結局断念。
6月に札幌で内藤コンファレンスの一環で“Oxygen Biology: Hypoxia, Oxidative Stress and Diseases“をテーマとしたカンファレンスが開催されました。山本雅之先生を中心としたオーガナイザーの先生方のご尽力でバランスの取れたかつ豪華メンバーの参加するよい会となりました。(参照)
参加者が寄稿されたムックが出版されています。
(実験医学増刊 Vol.30 No.17 活性酸素・ガス状分子による恒常性制御と疾患〜酸化ストレス応答と低酸素センシングの最新知見からがん,免疫,代謝・呼吸・循環異常,神経変性との関わりまで)
12月になりがんとハイポキシア研究会キシア研究会が開かれ,分子生物学会,生化学会で低酸素関連のシンポジウムが若い先生方中心に企画されすでに飽和状態となっているこの分野の研究もさらに発展していくのだという確信を抱きました。
-「代謝」「炎症」
低酸素研究が低酸素への細胞の影響という文脈で解析される機会はどんどんと減ってきています。完全に臨床的な諸現象のタメの重要な要素として取り上げられるようになってきています。
キーワードを挙げれば「代謝」と「炎症」という事になると思います。
なかでも代謝研究はHIFという補助線の登場と質量分析器の普及と平行して完全にリバイバルしていまや大流行となりました。
実験医学の増刊でそのものズバリのムックも出版されました。(がんと代謝〜何故がん細胞が好んで解糖系を使うのか?メタボローム解析が明かすがん細胞の本質から代謝研究がもたらす創薬・診断まで)
炎症関連では”Chronic Inflammation: Molecular Pathophysiology, Nutritional and Therapeutic Interventions)という書籍も刊行されました。バランスがとれたよい本だと思います。
個々の論文を紹介する時間がないのですが一つだけあげて置きます。
実はぼくもこのアイデアと似て非なる幼稚なものを考えた事がありましたがこんなに精緻なしかも大きな論文にまとめるなんて脱帽です。
-20年
Semenza氏がhypoxia-inducible factor (HIF)の実体に迫ったはじめの論文は1991年に出版されました。(参照1, 参照2)
すでに20年経過しているのです。ぼくが彼の研究室に参加したのは1999年ですのでそこからでもすでに10年以上経過しています。HIF-a hydroxylaseのcloningは2001年ですのでそこからもすでに10年は経っています。
セントラルドグマを修飾する様々な知見が報告されさらに臨床的な論文がどんどん出版されてきていますがHIFの活性化にはいまだ解明されていない様々な問題が横たわっています。
例えば
- HIF-1/HIF-2問題
- HIF-αの翻訳制御
- HIF-αの翻訳後修飾とその意義
- 低酸素センサーの実体
- 細胞の低酸素反応と生体の低酸素応答の乖離
などの諸問題です。
今後五つを十にで膨らませてどこかに総説としてまとめてみたいと思っています。
来年は旧年度中は今まで溜まっているいる論文に力を注ごうと思います。時間さえあればあっという間に終わるでしょう。
以上で今年の業務はお終いです。
【追記】
いつからかハッキリ覚えていませんがたぶん7年くらい前からjournal clubを放射線治療関連の先生方と続けています。原則毎週火曜日に一時間程度です。よく続いているなと感心しています。
昨年度読んだ論文をまとめて見ました。(参照)
毎週の教材はtwitter: @hypoxiabiology で公表しています。