2013年のベスト〜本〜

On 2013/12/29 日曜日, in Thus Spoke Dr. Hypoxia, by bodyhacker

金曜の当直で今年の麻酔はお終いでした。 ぼくの新年は3日からスタートです。
土曜日の朝から断続的に研究室で仕事をしたので目標のところまで到達できたと思ったのですが足りないところも出てきたのですこし作業をしています。
この年になると「帰省」といっても帰る場所もないので年末は気楽です。

余裕ができたところで年末の恒例行事を。(参照)


2013年のベスト本です。

〜フィクション〜

小説は毎年再読する何冊かのものは「読んだ」のですが新刊の小説は「読んだ」という程読んでいないのでパスなのですが、「新潮」に出ていた「沈むフランシス」が単行本になって評判でした。ぼくも雑誌で読みました。 

いちおう言っておきますがカバー写真の犬は「フランシス」ではありません。グルると直ぐ解ると思います、フランシスって何か。

 

田中慎弥氏の「燃える家」 も読みました。

珈琲店タレーランの事件簿シリーズ」は読みました。 これまた彩芽ちゃんでTVドラマするのでしょうか?

 

〜ノンフィクション〜

昨年のベスト本で沢木耕太郎さんの文藝春秋誌に掲載された「キャパの十字架」取り上げられました。 その後単行本として出版されました。 

キャパの十字架

昨年は以下の様なことを書きました。再録します。

 

読んで以下の様なことを考えました。

例えば誰かがある科学上の学説を論文としてまとめたとします。論文の査読上は特に問題は指摘されず発見の価値も高いということで雑誌への掲載が決まりました。しかしその論文には「ウソ」が記載されていました (この際この「ウソ」が意図的なウソかどうかは問いません。とにかく科学的な手続きによって検証されうる「ウソ」が含まれているのです)。

一方その発見自体は他の科学者によって追試されていつの間にか科学的な定説となっていきました。つまり「ウソ」によって導かれた結論はそれ自体は「本当」だったのです。

こういう状況をどう考えますか。

hard coreは「正しい」のだからsoft shellの瑕疵は見逃すのでしょうか。それともshellの瑕疵に基づき一旦はcoreは棄却されるべきなのでしょうか。

 

今年は基礎研究だけでなく大きな臨床研究でも研究の不正が取り上げれました。降圧薬バルサルタンをめぐる問題はマスコミでも大きく取り上げられました。

医者はよく「ウソ」をつくのですがこんなところでごまかされは困りますよね。 ただこの事件舞台が大きかったので大問題になりましたがそこら中にあふれているいわゆる「臨床研究」も調べたらいろいろと出てくるんでしょうね。

今年のベストセラーに近藤誠氏の「医者に殺されない47の心得 医療と薬を遠ざけて、元気に、長生きする方法」 が入っているのだそうです。

近藤氏の一連の書籍はある種の医師クラスターからは「医療否定本」と認定されているのだそうです。 ぼくも何冊かは読みましたがこれを「医療否定本」とは受け取りませんでした。 近藤本も近代医療批判として受けとめているだけです。

大学生の時代にイリイチの脱病院化社会とか脱学校の社会を結構しっかり読んで友達を勉強会まで開いていたのですが近藤本といえどもイリイチの批判の範疇とも言えると思いました

脱病院化社会―医療の限界」 

脱学校の社会」 

などです。

なぜか日曜日にケーブルテレビで「終の信託」という映画を観ました。 いわゆる「川崎協同病院事件」を下敷きにした映画です。

川崎協同病院事件は刑事裁判では被告医師は殺人罪で有罪となったのです。報道やネットでの記述を読む限りはこれを安楽死とか尊厳死と言うことはできないと思いました。 映画は少なくともぼくには冗長で何が主題なのかよく解らなかったのですが「もしもの時には先生の考えるように取りはからって欲しい」と患者が思うことはあるだろうなと思いました。

今日はワクチン一つとってもああでも無いこうでも無いという議論があって患者というか一般市民は大いに困ると思います。ぼくだって娘の某ワクチン接種について確定的な意見を出せないことで家内にボンクラ扱いされるのですから普通の人がどうべきか自分で判断しろと言われてもできるはずが無いと思います。

評論家の立花隆氏はすくなくともアンチ近藤氏ではありません。一方、彼は自らの膀胱腫瘍を放置はせず切除術とその後の補充療法を受けました。彼の廻りにはがんの専門家がたくさんいてそのアドバイスを批判的であっても受け容れれば事前とそういう結果になるとは思います。

彼は自らの著作「がん 生と死の謎に挑む 」で以下の様に述べています。

この取材をしてきて、私が確信していることが二つあります。

一つは、私が生きている間に人類ががんを医学的に克服することはほとんどないだろうということです。

で、もう一つは、だからというか、自分がそう遠くない時期に非常に確実に死ぬだろうけれども、そのことが解ったからといって、そうジタバタしなくて済むんじゃないかということなんです。 がんというものはしぶとすぎるほどしぶとい病気なんです。 というか、生命そのものがはらんでいる「一つの避けられない運命」という側面を持っているということなんですね。

そうであるなら、全てのがん患者はどこかでがんという病気と人生の残り時間の過ごし方について折り合いをつけねばなりません。 ぼくの場合、残りの時間の過ごし方はいたずらにがんばって人生のQOLを下げることではないだろうと思うんです。 徳永先生のところで学んだことは人間は皆死ぬ力を持っているということです。 死ぬ力というといい過ぎかもしれません。 死ぬまで生きる力といったほうが良いかもしれません。

単純な事実ですが、人間はみな死ぬまで生きるんです。ジタバタしてもしなくとも、死ぬまでみんなちゃんと生きられます。

その単純な事実を発見して、死ぬまでちゃんと生きることこそ、 がんを克服するということではないでしょうか

結局はその「折り合い」のつけ方なのです。

多くの医者は「優等生」または「もと優等生」でさらにさまざまな社会的な圧力を受けて「折り合いのポイント」を「高く設定」していきます。 最期まで無批判についていったらこれは大変です。

evidence-based medicineといいますが肝心なevidenceがいとも簡単にちゃぶ返しされてきたという歴史もあります。

某報道があったので小松秀樹氏の「慈恵医大青戸病院事件―医療の構造と実践的倫理」 を再読してみました。

2004年に出版されたので今日的な観点からは的外れな記述もありますが「医療の構造と実践的倫理」の部分ではこの10年間に出版されたどの書籍より論理的でかつ建設的な意見が述べられていると思います。

すくなくとも外科系臨床教室ではエリートこそ臨床に専念させるべきである。

という意見は重要だと思います。

手術がヘタな奴は外科医をキッパリとやめてしまって基礎研究にでも専念するのはよい事でそれで世界を変える発見ができればすばらしいのではないでしょうか。 そもそも博士号取得を目的とした研究活動は有害だと思っています。現行の制度での二年間の初期研修が終わった時点で「医療博士号」を取得させこれをもって名刺に「医博」と記載することを許可すべきだと思っています。

だからといって医者が大学院に入学して一定期間研究するのを否定するわけではありませんし、現行では少なくとも麻酔科の医者には積極的に薦めています。

研究というのは特定の診療科の研究としてずばらしいとかダメというのでなく、よい研究とダメな研究があるだけなのです。訳のわからん「研究」結果を聴いたときにまったくおかしいとかちょっとおかしいとか自分なりに判断できるだけでだいぶ違いますよ。またそんなおかしな「研究」で学位を取得した人に引け目を感じるのも詰まりません。

また医者はいったん臨床の現場に投入されるとじっくりものを考える時間が極端に減ります。少なくとも麻酔科の医者は一通り麻酔を身についてた時点で大学院で過ごすのはよい選択だと思います。麻酔臨床をやめる必要はなくアルバイトといえ麻酔科は麻酔をするのですから何の心配もいりません。そのてん外科系医師は大学院に入ってしまうと肝心の手術に専念できなくなります。

私は、成績の上位2〜3%に入ることは、それだけで、指導者たるべき能力の欠如を意味すると思っている。何が重要かを判断して自分の行動を決める能力が欠如しているからこそ、必要以上に記憶量を増やす空しい努力を維持できるのだ

という指摘は肝に銘じる必要があります(p126)。

成績の上位2〜3%の人に限らず医者って優等生クラスターですよ。何かに取り憑かれたかのように勉強している人が多いです。何も勉強しないぼくが言うのも何ですが…

 

通勤時間の多くは本を読んでいるので結構な量の読書はしました。 よかった本を以下に列挙したいと思います。

アメリカン・コミュニティ: 国家と個人が交差する場所 

「ひとりで苦しまないための「痛みの哲学」

「来るべき民主主義 小平市都道328号線と近代政治哲学の諸問題」

「民主主義のつくり方 」

「上岡龍太郎 話芸一代」

それで

Best本(非自然科学)は 

「動きすぎてはいけない: ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学」

 

としようと思います。 NHKの「哲子の部屋」を見て面白い人だなと思っていたら本が出たので読んでみました。

「序――切断論」は読みやすいですがそれ以降はそう簡単ではないと感じました。

ちなみに、ぼくが持っているのは著者サイン本です。

 

次に科学本

 

「拡張する脳」

理研の藤井さんの著作です。 本屋で読み始めて面白いので買って読みました。麻酔の機序をやっている人たちってどうして「多次元生体情報記録手法」のような解析法をしないんでしょうか。不思議です。 

「量子革命: アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突」

この本をきっかけに何冊か読んでこれをネタに二回ほど某所でお話をさせていただきました。

この本を読んで「科学を語るとはどういうことか」で議論されている「因果」が理解できました。(参照

 

でBest本(自然科学)は

「 科学者の卵たちに贈る言葉――江上不二夫が伝えたかったこと」

としようと思います。 これを「科学本」と呼ぶのかどうか解りませんが科学についての本である事は間違えが無いです。良い本です。 あなたが医者でだとしても一度は読んだらよいと思います。(参照

 

なのですがぼくにとって今年一番の本は

「シャーロック・ホームズの記号論―C.S.パースとホームズの比較研究」 

結構詳しく読み込みました。(参照) 関連本も数冊よみました。 今年はこのネタでどこかで話してみようと思っているのですが声が掛からないので…

「Mastermind: How to Think Like Sherlock Holmes」

上岡龍太郎 話芸一代  動きすぎてはいけない: ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学
量子革命: アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突 科学者の卵たちに贈る言葉――江上不二夫が伝えたかったこと (岩波科学ライブラリー)

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