「宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃」

京都大学の望月新一先生といえばABC予想を証明した人としてニュースになりましたがぼくはその内容を理解しようとは思っていませんでした。多分理解できないだろうと考えていたからです。

宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃はちょっと話題になっていたので、本屋で見かけて立ち読みをしてみました。何とかなりそうな気もしたので買って挑戦することにしました。

 

「宇宙と宇宙をつなぐ数学」です。まず「宇宙」って何だよと思います。「宇宙」とは「宇宙際タイヒミューラー理論」の「宇宙」の事なのです。最後まで読むと「宇宙」という意味が何となる解ります。

 

目次は以下の通りです。

  • 第1章 IUTショック
  • 第2章 数学者の仕事
  • 第3章 宇宙際幾何学者
  • 第4章 たし算とかけ算
  • 第5章 パズルのピース
  • 第6章 対称性通信
  • 第7章 「行為」の計算
  • 第8章 伝達・復元・ひずみ

第一章の前に、望月氏による「刊行によせて」という文章がついています。

この「刊行によせて」ははじめ読んでも全く意味が理解できませんでした。普通には悪文だと思いました。

しかしこの本を最後まで読んだ後に読み返してみると理解できるのでした。つまりこの本はこの「刊行によせて」を解題する内容となっているのだということが理解できます。

 

この本は、IUT理論つまり宇宙際タイヒミューラー理論, Inter-universal Teichmüller theoryの解説書という体裁をとっています。 第1章と第2章が一種のイントロダクションです。用語の解説の他に数学者の生態などがエピソードとして挿入されていきます。 第3章からがIUT理論の解説となっています。

美味い比喩を駆使して取りあえず最後まで連れていってくれます。

数学の予備知識は高校を卒業した位の人には必要はないと思いますが途中すこし難しい所があります。我慢して読み進めてください。

途中登場する、「ABC予想が正しいとするとフェルマーの定理が解けるとする説明」のその筋道が簡潔でしかもぼくでも理解できたのでびっくりしました。

最後までたどりついてちょっと感動しました。自分の専門領域の論文と小説を読んで得られる感動とは少し異質です。

 

著者の加藤氏と望月氏は二人の勉強会の後百万遍の焼肉屋でお疲れ会を毎回開いたそうです-その時期ぼくは京都のあの界隈にいましたがパッとその焼肉屋が思いつきません-。

しかし、百万遍の北東に広がる地区には15年くらい暮らしましたが学問をするのに世界で最も適した地域だと今でも思っています。

 

MATH POWER とうイベントがありMATH POWER2017での講演がきっかけでできた本のようです。

講演の様子は 【MathPower2017】 07_講演「ABC予想と新しい数学」 で視聴することができます。

 

ポアンカレ予想グリゴリー・ペレルマンによって証明されたと考えられているようです。

  • arXivにupされた以下の3つのpreprintでポアンカレ予想が証明されたとのことです。 The entropy formula for the Ricci flow and its geometric applications
  • Ricci flow with surgery on three-manifolds
  • Finite extinction time for the solutions to the Ricci flow on certain three-manifolds

surgery on three-manifoldsってやっぱり独特のタイトルですよね。

 

とにかく学問をこのように進める事ができる特権的な能力を持って生まれた人は幸せだと思います。

 

宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃


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「羽根の記憶」

On 2019/3/31 日曜日, in book, hypoxia reseacrh, Lifehacking, by bodyhacker

昨年の9月まで院生だった先生の論文がアクセプトされました。

内容-acceptされたmanuscriptと同一ではありません-はpreprint serverにdepositされていますのでいち早くチェックしたいという方はそちらでどうぞ。(参照)

先生は某学会の若手奨励賞というのを次の学会で受賞されることがきまっています-授賞論文はこの論文とは別筋の研究ですけど-。学会の会期中に記念講演があるそうです。

本賞は(公社)XXXX学会において1年間に発表された論文のうち、37才以下の若手研究者による最も優れた研究論文を発表した会員に授与する

という賞らしいです。ぼくは地味な研究者ですのでこのような賞は頂いたことがありませんというか当時麻酔関連の研究などしていませんでした。

【追記】よく考えたらぼくもこれ頂いていました。当時は年齢制限がありました。今は無いようですけど。


伸るか反るか

昨日(土曜日)にぼくの先生-何度も登場するATLを世界で初めて症例報告した人-と先生の奧さんと枚方市某所でワインを呑みました。

いつも変わりばえの無い話をするのですが今回はちょっと研究の話もしました。

 

実験をして結果を論文として発表します。この段階では少なくとも自分たちは論文の結論は自分たちの持っている実験結果から導けるという確信を持っていることに公式()にはなっていると思っています。

問題は研究の端緒です。

ある作業仮説を立てて、それを検証する実験を組む。結果を見てそこから前に進むか そこで止めるかの判断をしますが、どのくらいの確信があれば進むかという問題です。

こんな話題を35年ほど前にぼくの師匠に本庶先生が振ってきたことがあったそうです。師匠は8割5分と答えたそうですが本庶先生は俺は7割なら行くと話していたとのこと。

発見を端緒とするストーリー-といってもストーリーが先行する場合もあることはあります-を精一杯盛る()とこんな展開、最もベタな解釈はこんな展開になるというような選択肢をいくつか考えて最終的には最高のストーリーに結論が落ちると大満足です。しかし、もっともベタなものでもpublishできればそれはそれでよしとするという感じとなります、ぼくの場合は。

自分で実験をしてdataを産み出していたときは眼の前のdataの確からしさは自分が一番よく認識できていた訳ですが今は自分はdataを産み出しません-例外は遺伝子の発現解析ですがこれはアルゴリズムに従えば誰でも同じ結果がでる(はず)ます-。llabのメンバーのdataを元に判断するので事情は単純ではありません。プライマリーのdataとしては見栄えがよいより、ポジコン、ネガコンが揃っているか再現性(定量的、定性的)はあるかなどを勘案して取りあえず進んで行きます。結果が安定しなければ「筋」が悪いと判断してそこでストップの時もあります。

 

ATL研究の流れでIL-2の受容体の分子クローニングが師匠と本庶先生の共同研究として行われました。その結果として、世に名高いTac抗体が認識する抗原としてIL-2Rα鎖(CD25とも言われます)のcDNAが単離された訳です。(参照

次に控えていた大きなissueはこのIL-2Ra鎖がIL-2シグナルを細胞内に伝達することに十分かという事でした。a鎖とβ鎖でも不十分で最終的にはcommon γの分子クローニングで決着が着くのですがそれまでの研究者の格闘の跡が論文で確認できます。(参照1, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2827038)

みたいな話をワインを飲みながらしました。そしてこのような話題は呑ミナーのアジェンダとしてふさわしいと思いませんか。

legendaryな先生のセミナーもこういう話を盛り込んでくれるとグッと楽しくなると思います。

 

月曜日に研究室にいたら3月で退任される神経解剖学の先生の訪問を受けました。

今日で業務としては最終日で明日は博士号授与式に出席してそれが最後のお仕事ということでした。

よく話す先生でぼくの2.5倍はお話になられるような方でした。

呑む会でも結構呑まれてぼくも防戦のために結構呑むという関係でした。

退任に当たってお弟子さんらが編まれた業績目録を持ってきていただいたのでした。

すこし話し込んだのですが筋の通ったお話でちょっと感銘を受けました。このブログを読んでいたと告白され穴があったら入りたいほど恥ずかしかったです。

新年度からも新天地でご活躍ください。


集中を持続する

論文の作業をする時集中力を保つタメにいろんな事をします。(参照1, 参照2)

今使っているboseのノイズリダクションシステムを使ったヘッドフォンは優先で時々そのまま立ちあがったり移動したりしようとしてコーヒーをこぼしたりすることもあるので無線のものに買い換えたいのですがどれでもいいという訳でもないので迷っています。4時間くらい装着して耳が痛くならないというそこが重要なんです。

午前中4時間くらいは何とか集中できるとして午後からは集中が困難になってきます。ヘッドフォンをかけて無音にしてみたりまた音楽を流したりしながら乗り切る訳です。


羽根の記憶

Rolandがぼくらの間でブームになっています。

毎週定期的に麻酔をする病院の整形外科の先生方が盛り上がっているのを聞きつけてビデオとか見みました。

本も出版されてこれも当然読みました。

俺か、俺以外か。 ローランドという生き方

彼の名言集です。

最近はアイドルグループでもライブが行われると基本情報として当日のセットリストが発表されます。

先日の「乃木坂46 7th YEAR BIRTHDAY LIVE 西野七瀬 卒業コンサート」はこんなセットリストだったようです。

卒コンにふさわしいラインアップで論文の作業しながら聴くと実に味わい深いです。

Rolandの名言に負けない名フレーズが登場します。

空は飛ぶためにある 見上げるためじゃない 軽やかに飛んでいる鳥を見て思う 今ぼくにできること 自分の背中には 使っていない羽根がある記憶を 信じること

まだ眠る 可能性 無限大だ

とかこんなストレートな歌詞は彼女らにしか唄えないと思います。

魚たちのLOVE SONG

何もできずそばにいる

傾斜する

他の星から

吐息のメソッド

隙間

やさしさとは

そして 光合成希望 とか名曲だと思います。


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*生命科学データベース・ウェブツール 図解と動画で使い方がわかる! 研究がはかどる定番18選 *がメディカルサイエンスインターナショナル 社から出版されます (amazonでは現在絶賛予約受付中です)。

一足先に入手して読んでこれはと思ったので推薦文を書いてみます。

生命科学データベース・ウェブツール 図解と動画で使い方がわかる! 研究がはかどる定番18選

1500を越える統合TVの「番組」から18番組を厳選して紹介している本です。

つまり

章の数は18を数えた。武士が習得すべき武技の総称として「武芸十八般」という言葉もあるが,本書で紹介するさまざまなデータベースやウェブツールの使い方に習熟し,研究者にとっての「十八般」を会得してほしい。また,それらを自分の「十八番(おはこ)」と自負できるほど究めることができれば,研究サイクルの加速化・効率化は間違いないだろう。生命科学研究に携わる多くの人にとって,本書がその一助となれば,監修者として望外の喜びである。

18番組が4つのパートに分かれています。

  • Part 1 生命科学系研究室の新人が絶対に知っておくべき5 つのツール
  • Part 2 「 仮説・実験・解析・出版」の研究サイクルを加速させる便利なツール
  • Part 3 生命科学系データ解析の現場で,押さえておきたい「鉄板」ツール
  • Part 4 ビッグデータ時代の疾患ゲノム解析で使いこなしたいデータベース
 

18番組は以下の通りです。

  • 1章 PubMed で論文を効率的に検索する
  • 2章 PowerPoint で欲しいイラストを描く
  • 3章 Google のサービスを活用する
  • 4章 BLAST で遺伝子の配列類似性検索をする
  • 5章 PCR プライマーを設計する- Primer3Plus とPrimer-BLAST
  • 6 章 ImageJ で画像ファイルを操作する
  • 7 章 ゲノムブラウザを使って遺伝子を知る─ UCSC Genome Browser など
  • 8 章 英語表現や略語をすばやく検索する─ inMeXes とAllie
  • 9 章 最新知見を日本語で知る・読む・学ぶ─新着論文レビューと領域融合レビュー
  • 10 章 MEGAで系統樹を作成する
  • 11 章 RefEx とChip-Atlas で公共の遺伝子発現データを快適に検索する
  • 12 章 Metascapeでエンリッチメント解析をして自分の持つ遺伝子リストを解釈する
  • 13 章 TCGAで各がん種の公開データのダウンロードや解析を行う
  • 14 章 COSMIC でがん遺伝子の体細胞変異を調べる
  • 15 章 GWAS Catalog で形質とバリアントの関連について検索する
  • 16 章 ClinVar で疾患に関連するバリアントを検索する
  • 17 章 gnomAD でヒトのエキソームやゲノムのデータから変異を探す
  • 18 章 GTEx Portal でヒトの各組織での遺伝子発現量や影響するeQTL を調べる

第一章から第12章までのツールは日頃使っています。

特に、DBCLS謹製のRefEx 、Chip-Atlasとmetascapseはぼくにとっては研究になくてはならないtoolとなっています。

Part 4 ビッグデータ時代の疾患ゲノム解析で使いこなしたいデータベース の第14章以降はぼくにとっては今現在「普段使い」とは言えないtoolなのですが「「十八番(おはこ)」と自負できるほど究め」てみようと思います。

 

もっと分厚い本を想像していました。記述は結構あっさりしています。

考えたらこれはTV番組の解説なのだということに気づきました。

この本を開きながら-スクリーンショットが載っています-番組を視て本に残したメモを見ながら実際に手を動かすような使い方が考えられます。

大学院の学生さんにもとにかくこの18のツールは使い込んで自家薬籠中の物としてもらいたいですね。本を提示して番組を時間のあるときに視聴してもらうことで大学院の講義を聴くより大きな効果が期待できると思います。

 

付録とコラムも面白いです。

統合TVといえばぼくにとっては統合牧場を思い出します。「牧場」構想をお聞きしたときはこれは一種の発明だなと思いました。 統合TVもこの牧場の収穫物として「放送」がはじまったという風に記憶しています。

出版にまつわるエピソードや監修者のお一人である坊農さんの考えは以下からお読み頂けます。

現在横浜で開催中の分子生物学会で先行販売(10%引き)中だそうです。


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