恒例ですので今年も「ハイポキシア生物学の2016年を振り返って」をやります。

2002年に帰国したとき産業技術総合研究所の主任研究者になりました。

そこからしばらく基礎研究者が麻酔もする人間になっていたのですが,結局は麻酔をする人が基礎研究もする生活に戻りました。

今年の7月から再度基礎研究者が麻酔もするということになりました。


~メトリクス~

pubmedで”HIF[TIAB] and 2016[DP]” (2015 12/28)と検索窓にと検索窓に入力すると1688篇の論文があると返ってきます。HIF[TIAB] and 2015[DP]では1774篇です。

“hypoxia[TIAB] and 2014[DP]” では6207篇だったのが”hypoxia[TIAB] and 2016[DP] “(2015 12/28)では6471篇です。毎年これだけの論文が安定的に出ているという事に驚きます。

ちなみにコントロールの”iPS[TIAB] and 2014[DP]”では724篇で”iPS[TIAB] and 2015[DP]” (2015 12/28)では705篇でした。

今年は免疫とくに獲得免疫の分野でHIF関連の優れた研究が次々に発表されました。


アルバート・ラスカー基礎医学研究賞

アルバート・ラスカー基礎医学研究賞をSemzan氏が他の二人の研究者と受賞しました。

ぼくの研究の区切りがついたような気持ちがして清清した気分になりました。

とにかく自分が若い頃(1990年代)重要だと思ってかなり入れ込んだ仕事(HIF-1活性化の分子機序の解明)が確かに意味のあることだったと認めてもらえたことにすごく満足しています。 1990年代はこの分野の研究ヒストリーですごくexcitingな10年でした。この10年間を学問領域の立ち上がりからつぶさに観察・関与できて幸せな研究人生を送れたと思います。

残るはノーベル賞です。晴れ舞台でかつての仲間とreunionできたら最高です。

このブログに発表したエントリーをすこし変更して再度掲載してまとめとしておきます。手抜きです,済みません。

来年も研究はしますから関係者の皆さんよろしく!!


Lasker award

今年の2016 Albert Lasker Basic Medical Research Award

Gregg L. Semenza博士が、米国と英国の他の二人の研究者と共に決まりました。

 

受賞は

Oxygen sensing – an essential process for survival

への貢献です。

 

彼がJohns Hopkins Universityで運営してた(今もやってますが)labにぼくは1999年の8月から2002年の2月までvisiting professorとして参加しました。

 

彼の言葉で今でも印象に残っていることが二つあります。

HIF-1のcloningは彼が主に中国人のポスドク(Wang)と行った仕事なのですが、ある日、自分のオフィス(といってもラボの一角を仕切って作った2.5畳のスペース)の扉を閉めて「Kiichi、偉大な仕事をするためには優秀なポスドクが必要なんだ」と彼に言われたこと。

もう一つはぼくらのFIH-1の論文が出てしばらくした頃、研究室のぼくのベンチまで(彼がベンチまでやってくるのはとっても珍しい)満面の笑顔で「RatcllifeがFIH-1のクローンを欲しいといってきたよ」とわざわざいいに来たことです。

 

学会で来日したときには京大の麻酔科の比叡山が見える研究室を訪問してくれました。

その折りに「いつまで麻酔なんてやっているんだと。とっとと止めて研究に専念しろ」と言われたことも思い出しました。

 

Semenza研はHIF-1のcDNA cloning, HIF-1aのノックアウトマウスの報告において世界での先陣をきり、酸素分圧のセンシング機構でもFIH-1のcloningに成功していたのでこの分野でGreggが受賞するのは当然です。

 

彼自身が執筆したEssayが読めるようになっています。(参照)

Greggらしい文章ですね。

知っていたエピソードもあるし始めて聞いたネタもあります。

このビデオのGreggがいる場所は彼のオフィスです。BaltimoreのInner Harborが一望できる素晴らしい場所です。以前のオフィスとはまったく似ていません。 彼の部屋の片隅にMac SE/30が置いてあります。聞いたら初めてR01 grantが当たった時に使っていた記念の品なのだそうです。

 

この賞の受賞者は来月早々に発表されるNobel賞を受賞することが多いそうです。こっちももらってlab. memberがre-unionできたら幸せだろうな。

 

Google Schalorの統計に寄ればぼくはGreggとの共著論文ランキングの10位です。

 

ぼくらが20世紀の後半から21世紀の初頭にかけて行っていた研究がLasker賞に結実したことはとても嬉しいです。

今回の受賞理由に挙がられている研究は1990年代にほぼ終わっていてHIFa水酸化酵素の報告もPHD, FIH-1とも2001年です。2001年にHIF活性化調節のセントラルドクマが定立されたのです。

ぼくらがその当時やっていたことは生物学上の重要課題であった、その課題の解決に貢献ができたということでぼくは満足です。

極東の一麻酔科医ができる最高の貢献だったと自負しています。

 

 

故森健次郎先生が大学院の研究を淀井淳司先生の研究室でやれとぼくに命令しなかったら、またその後ぼくにお前は日本にいたらダメになると言ってくれなかったらぼくがGreggの研究室に参加することはなかったし、研究もとっくの昔に止めていたと思います。

 

 


Lacker賞関連の紹介論文

Lacker賞関連の論文をいくつか紹介します。 いわゆる超一流誌に発表された論文で全てfreeで読むことができます

NEJM

The Hypoxia Response Pathways — Hats Off!

M. Celeste Simon, Ph.D.

 

JAMA

Pathways for Oxygen Regulation and Homeostasis

William G. Kaelin Jr; Peter J. Ratcliffe; Gregg L. Semenza

3人の共著!?論文です。

 

JCIには

William Kaelin, Peter Ratcliffe, and Gregg Semenza receive the 2016 Albert Lasker Basic Medical Research Award

Jillian H. Hurst

 

Cellは豪華版です。

Into Thin Air: How We Sense and Respond to Hypoxia.

Thompson CB.

に加えて

Karen氏とRatcllife氏の対談的インタビュー

Semenza氏のessay

 

今回の,受賞理由は1990年代の研究に基づきます。

HIF-1研究の初期から酸素分圧の低下に依存しないHIF-1の活性化の研究が続いていてこのラインの研究ががん研究とマージしたことがHIF-1の学問がblakeした理由だと理解しています。

PHDのcloningの論文が発表されたときもGreggはアレが本当の低酸素のセンサー分子であるかどうかは解らないという感想を述べていました。

PHD(PHD2)の発現はHIF-1により亢進することが知られていてそのような性質の分子を「センサー」とゥ呼ぶのが適切か解らないという意見です。まあ格好はいいわけですが。

それを割り引いてもHIF-1活性化のbona fide hypoxia senserの実体はいまだ藪の中だとぼくは考えています。

 

またぼくはこの論文この論文をすごく評価しています。


第14回がんとハイポキシア研究会での講演

第14回がんとハイポキシア研究会が11/4から岐阜市で開催されます。

二日目の午前中に20分ほどフリートーク風に今年のラスカー賞をきっかけに低酸素研究のいままでを話すことになっています (2016 年アルバート・ラスカー基礎医学賞を記念して)。

【追記】”Oxygen, Hypoxia and Beyond“として使ったスライドをfigureshareに上げてあります。(参照)


この分野ですがラスカー賞の対象になるくらいには発展していますのでおびただしい数の総説が今まで出版されています。

それをなぞるのでは面白くないのでちょっとひねった話をしたいと思っています。

ぼくの話を聞いていただくためには特別な予備知識は必要はないのですが以下の論文のアブストラクトだけでもながめておくとより楽しんでいただけるのではないかと思っています。

ラスカー賞の対象となった研究は1990年から10年くらいの期間に行われた研究が対象となっていますがその間に出版された論文を選んでみました。

どの論文もすでに古典となっている論文です。

読んでいない論文があればこれを機会に熟読玩味してみてください。

なお論文の頭に#をつけた論文はLasker財団のページで受賞理由で取り上げられているものです。

論文はpubmedにリンクしてあります。

EPO遺伝子の発現誘導

The regulated expression of erythropoietin by two human hepatoma cell lines. Goldberg MA, Glass GA, Cunningham JM, Bunn HF. Proc Natl Acad Sci U S A. 1987 Nov;84(22):7972-6. PMID: 2825172

Regulation of the erythropoietin gene: evidence that the oxygen sensor is a heme protein. Goldberg MA, Dunning SP, Bunn HF. Science. 1988 Dec 9;242(4884):1412-5. PMID: 2849206

Regulatory elements of the erythropoietin gene. Imagawa S, Goldberg MA, Doweiko J, Bunn HF. Blood. 1991 Jan 15;77(2):278-85. PMID: 1985694

Erythropoietin mRNA levels are governed by both the rate of gene transcription and posttranscriptional events. Goldberg MA, Gaut CC, Bunn HF. Blood. 1991 Jan 15;77(2):271-7. PMID: 1985693

この4篇に代表されるように初期にBunn氏の研究室が重要な役割を果たしました。 肝臓がん由来の細胞株でEPOの誘導が観察されること,EPO遺伝子上にRegulatory elementsが存在することなど後のHIF-1単離につながる重要な発見を報告しています。

 

追走するSemenza研

これを追いかけるようにまた並走してSemensa氏の研究室から次々に論文が出ていきました。

Polycythemia in transgenic mice expressing the human erythropoietin gene. Semenza GL, Traystman MD, Gearhart JD, Antonarakis SE. Proc Natl Acad Sci U S A. 1989 Apr;86(7):2301-5. PMID: 2928334

Human erythropoietin gene expression in transgenic mice: multiple transcription initiation sites and cis-acting regulatory elements. Semenza GL, Dureza RC, Traystman MD, Gearhart JD, Antonarakis SE. Mol Cell Biol. 1990 Mar;10(3):930-8. PMID: 2304468

Hypoxia-inducible nuclear factors bind to an enhancer element located 3′ to the human erythropoietin gene. Semenza GL, Nejfelt MK, Chi SM, Antonarakis SE. Proc Natl Acad Sci U S A. 1991 Jul 1;88(13):5680-4. PMID: 2062846

A nuclear factor induced by hypoxia via de novo protein synthesis binds to the human erythropoietin gene enhancer at a site required for transcriptional activation. Semenza GL, Wang GL. Mol Cell Biol. 1992

Cell-type-specific and hypoxia-inducible expression of the human erythropoietin gene in transgenic mice. Semenza GL, Koury ST, Nejfelt MK, Gearhart JD, Antonarakis SE. Proc Natl Acad Sci U S A. 1991 Oct 1;88(19):8725-9. PMID: 1924331

 

HIF-1の登場

General involvement of hypoxia-inducible factor 1 in transcriptional response to hypoxia. Wang GL, Semenza GL. Proc Natl Acad Sci U S A. 1993 May 1;90(9):4304-8. PMID: 8387214

Transcriptional regulation of genes encoding glycolytic enzymes by hypoxia-inducible factor 1. Semenza GL, Roth PH, Fang HM, Wang GL. J Biol Chem. 1994 Sep 23;269(38):23757-63. PMID: 8089148

1995年にはHIF-1の蛋白質の同定とcDNA単離が報告されました。

Purification and characterization of hypoxia-inducible factor 1. Wang GL, Semenza GL. J Biol Chem. 1995 Jan 20;270(3):1230-7. PMID: 7836384

Hypoxia-inducible factor 1 is a basic-helix-loop-helix-PAS heterodimer regulated by cellular O2 tension. Wang GL1, Jiang BH, Rue EA, Semenza GL. Proc Natl Acad Sci U S A. 1995 Jun 6;92(12):5510-4. PMID: 7539918

HIF-1のcDNA cloningの後の最も大きな問題はその活性化の分子機構の解明となりました。 活性化と一言にいっても当時はその意味合いも曖昧でした。 PNASの論文ではmRNAの発現をNorther blotで解析して1%O2, CoCl2, DFX処理でmRNAが「誘導」されるという実験結果が提示されています。 HIF-1a HIF-1bに対する抗体を使ったデータはありますがHIF-1aに加えてHIF-1bの蛋白質発現も「誘導」されるという結果が提示されています。 Hep3Bを用いた実験結果ですのでこれは現在流通しているコンセンサスとは異なります。

そこの後の解析で少なくとも細胞株ではHIF-1a, HIF-1bともmRNAは酸素分圧が変化に応答して発現が大きく変化すること言うことはないが,HIF-1aの蛋白質の発現は酸素分圧の低下に相関して増大することが解ってきました。

Hypoxia-inducible factor 1 levels vary exponentially over a physiologically relevant range of O2 tension. Jiang BH, Semenza GL, Bauer C, Marti HH. Am J Physiol. 1996 Oct;271(4 Pt 1):C1172-80. PMID: 8897823

そうこうしているうちに1997年にはHIF-1aが酸素分圧依存のユビキチン化を受けていて低酸素環境下では蛋白質が安定化するという機序で細胞内で蓄積するという報告が相次ぎました。

 

HIF-1の酸素分圧依存性の活性化

Hypoxia-inducible factor 1alpha (HIF-1alpha) protein is rapidly degraded by the ubiquitin-proteasome system under normoxic conditions. Its stabilization by hypoxia depends on redox-induced changes. Salceda S, Caro J. J Biol Chem. 1997 Sep 5;272(36):22642-7. PMID: 9278421

Regulation of hypoxia-inducible factor 1alpha is mediated by an O2-dependent degradation domain via the ubiquitin-proteasome pathway. Huang LE, Gu J, Schau M, Bunn HF. Proc Natl Acad Sci U S A. 1998 Jul 7;95(14):7987-92. PMID: 9653127

Regulation of the hypoxia-inducible transcription factor 1alpha by the ubiquitin-proteasome pathway. Kallio PJ, Wilson WJ, O’Brien S, Makino Y, Poellinger L. J Biol Chem. 1999 Mar 5;274(10):6519-25. PMID: 10037745

1999年にはこのユビキチン化にVHL-E3 ligaseの構成分子-が重要な役割を果たしているという一連の報告がされました。ここら辺からKaelin氏, Ratcliffe氏が大きな役割を果たすようになってきました。

The tumour suppressor protein VHL targets hypoxia-inducible factors for oxygen-dependent proteolysis. Maxwell PH, Wiesener MS, Chang GW, Clifford SC, Vaux EC, Cockman ME, Wykoff CC, Pugh CW, Maher ER, Ratcliffe PJ. Nature. 1999 May 20;399(6733):271-5. PMID: 10353251

Ubiquitination of hypoxia-inducible factor requires direct binding to the beta-domain of the von Hippel-Lindau protein. Ohh M, Park CW, Ivan M, Hoffman MA, Kim TY, Huang LE, Pavletich N, Chau V, Kaelin WG. Nat Cell Biol. 2000 Jul;2(7):423-7. PMID: 10878807

Mechanism of regulation of the hypoxia-inducible factor-1 alpha by the von Hippel-Lindau tumor suppressor protein. Tanimoto K, Makino Y, Pereira T, Poellinger L. EMBO J. 2000 Aug 15;19(16):4298-309. PMID: 10944113

2001年は当たり年でした。 VHLを含むユビキチン化システムのHIF-1aへの指向性がHIF-1aのプロリン残基の水酸化に依存しているという論文がScieceにKaelin氏とRatcliffe氏のグループからback-to-backで立て続けにでてCellにはその水酸化を担う酸素添加酵素のcDNA cloningに成功した世という論文がRatcliffe氏の研究室から報告されたのです。

HIFalpha targeted for VHL-mediated destruction by proline hydroxylation: implications for O2 sensing. Ivan M, Kondo K, Yang H, Kim W, Valiando J, Ohh M, Salic A, Asara JM, Lane WS, Kaelin WG Jr. Science. 2001 Apr 20;292(5516):464-8. PMID: 11292862

Targeting of HIF-alpha to the von Hippel-Lindau ubiquitylation complex by O2-regulated prolyl hydroxylation. Jaakkola P, Mole DR, Tian YM, Wilson MI, Gielbert J, Gaskell SJ, von Kriegsheim A, Hebestreit HF, Mukherji M, Schofield CJ, Maxwell PH, Pugh CW, Ratcliffe PJ. Science. 2001 Apr 20;292(5516):468-72. PMID: 11292861

 

HIF-1aプロリン残基を水酸化する酸素添加酵素の同定

C. elegans EGL-9 and mammalian homologs define a family of dioxygenases that regulate HIF by prolyl hydroxylation. Epstein AC, Gleadle JM, McNeill LA, Hewitson KS, O’Rourke J, Mole DR, Mukherji M, Metzen E, Wilson MI, Dhanda A, Tian YM, Masson N, Hamilton DL, Jaakkola P, Barstead R, Hodgkin J, Maxwell PH, Pugh CW, Schofield CJ, Ratcliffe PJ. Cell. 2001 Oct 5;107(1):43-54. PMID: 11595184

 

実はぼくらのFIH-1のcDNA cloingもひっそりと2001年に報告したのですがこれがもう一つの水酸化酵素だという報告は次の年になされました。

これで酸素分圧依存性のHIF-1a蛋白質の安定性とHIF-1aの転写活性化を説明するセントラルドグマが定立されたのです。

 

日陰者のFIH-1

FIH-1: a novel protein that interacts with HIF-1alpha and VHL to mediate repression of HIF-1 transcriptional activity. Mahon PC, Hirota K, Semenza GL. Genes Dev. 2001 Oct 15;15(20):2675-86. PMID: 11641274

FIH-1 is an asparaginyl hydroxylase enzyme that regulates the transcriptional activity of hypoxia-inducible factor. Lando D, Peet DJ, Gorman JJ, Whelan DA, Whitelaw ML, Bruick RK. Genes Dev. 2002 Jun 15;16(12):1466-71. PMID: 12080085


PDF

放牧か飼育か

On 2014/4/13 日曜日, in hypoxia reseacrh, by bodyhacker

10日ほど前から風邪なのか花粉症か区別の付かないような症状が出ていたのですがここにきてようやく寛解状態に向かっている感じがしてきました。 とはいえどうもスッキリしません。

「脳の中の時間旅行 : なぜ時間はワープするのか」 に書いてあったのですが体温が高くなると時間が早くゆっくり進む(と感じる)のだそうです。

言われてみるとそんな気もします。

カメラロール-2108


再現するのって結構むずかしい

今ボストンにいる甲斐さんの論文 The volatile anesthetic isoflurane differentially suppresses the induction of erythropoietin synthesis elicited by acute anemia and systemic hypoxemia in mice in an hypoxia-inducible factor-2-dependent manner がEuropean Journal of Pharmacologyにアクセプトされて出版されました。(参照

結構な難産でした。

理由は簡単で査読者を簡単に納得させるためにはデータ量が足りなかったからです。現象はすごくおもしろいし十分な再現性があると思いますが論文として査読を経るとなるといろいろと指摘されることになります。 査読コメントにはトンデモないものもありEditorに抗議をしたりしてやっとアクセプトです。最近は一回くらいrejectされても査読の問題点を取り合えずeditorに送ってみるくらいにはずうずうしくなりました。大抵の場合(といってもぼくのレベルの場合はですけど)はもう一度査読に廻してくれます。

生体が低酸素に暴露されると血清中のエリスロポエチンの濃度が上昇します。甲斐さんの論文の前に田中さんが低酸素血症では脳と腎臓でEPOが誘導されて同時に血清中のEPOの濃度がおそらくHIF-2a依存的に上昇するのではないかという論文を発表していました。またこの上昇は揮発性吸入麻酔薬イソフルランに感受性です。つまりイソフルランの吸入でEPOの上昇は抑制されます。しかしこの抑制は脳でのみ観察されて腎臓でのEPOのmRNA誘導は抑制されませんでした。

今回は脱血により貧血状態を作った場合にどうなるのかという検討を行いました。マウスの眼窩から脱血を行うとヘモグロビンが低下します。 貧血を誘導しても低酸素血症とほぼ同じような時間的なプロフィールでEPOの上昇が観察されます。しかし低酸素血症の場合と異なりこの上昇は腎臓でのみ観察されて脳では観察されません。さらにイソフルランは脱血モデルは腎臓でのEPO mRNAの上昇を抑制しました。 つまり組織低酸素をもたらす低酸素血症と脱血による貧血ではEPO誘導の機序が異なりまたイソフルランへの感受性にも違いがあるということがわかったということです。

簡単な実験なのですが結構おもしろい事を主張しているとぼくは思っています。

このような実験を進めたのには訳があります。

すごく以前にぼくが留学する前に一緒に研究をしていた伊藤さんという大学院生がいました。今は高松の病院で臨床医として活躍しています。ぼくと研究をした初めての大学院です。 彼と行った実験結果をまとめた論文があります。

Reversible inhibition of hypoxia-inducible factor 1 activation by exposure of hypoxic cells to the volatile anesthetic halothane.参照

つまり揮発性吸入麻酔薬のhalothaneは培養細胞 (Hep3B細胞)では低酸素誘導性のHIF-1の活性化を抑制するという発見です。 単純な実験ですが何の問題も無くアクセプトされました。 その後-といってもぼくらの論文の5年後ーにAnesthesiologysという雑誌に Up-regulation of hypoxia inducible factor 1alpha by isoflurane in Hep3B cells. という論文が掲載されました。

ぼくらはhalothaneという薬剤を使いましたがこっちは同じ揮発性吸入麻酔薬ですがisofluraneを使っています。 ぼくらは低酸素環境下でのHIF-1の活性化への影響に主眼を置きましたが、こちらの論文では20%酸素環境下でのisofluraneのHIF-1活性化に与える影響を調べたものです。

実はぼくはisofluraneの影響もそれまでに調べたことはありましたがHIF-1の活性化を観察することはありませんでした。

培養細胞に麻酔薬に暴露するだけの簡単な実験ですから間違えようがないともいえるのですが、この齟齬の理由は定かではありません。

Anesthesiology誌の論文はぼくが査読したのではありませんが査読がぼくに廻ったとしてもぼくらの実験結果と違うという理由でreject相当とは判断でき無いくらい小さくまとまった論文でした。

何時か動物の生体内でこの問題に決着をつけたいということはすっと思っていました。 そこに田中先生が来てくれたので彼と相談して研究を始めたことがまとまったものが紹介した

General anesthetics inhibit erythropoietin induction under hypoxic conditions in the mouse brain. です。

この実験でハッキリしたことは空気を吸入して生きているマウスをisofluraneに暴露してもHIF-1やHIF-2の活性化は観察できないうことです。 そして今回の甲斐さんの論文です。 これらの研究でも実は行っていない検討がいくつかあるのですがぼくとしてかなり満足しました。

これに限らず、一見矛盾する研究結果がいろんな雑誌で発表されています。

人によっては明らかに自分では再現できない観察結果を論文にする人もいますがそうで無い場合もいくらでもあります。 なので「再現性」の問題は難問だとぼくは思っています。

少なくとも「著者しか再現できないからその研究の主張が「間違え」だとか「意味が無い」」という言い方にはぼくは同意できません。


放牧と飼育

@enodon さんのブログエントリー「放牧ラボとブロイラーラボ~人材育成の流儀」 を読みました。

私がかつて所属した浅島誠先生の研究室も「放牧ラボ(研究室)」でした。もちろん研究室のテーマはありましたが、院生が必死に考え、先輩たちから方法を聞いたり、どこかに学びに行ったりして研究していました。論文を書くのも、エディターとのやり取りも、院生主導です。

ぼくの院生時代の研究室もこんな感じでした。

という訳でぼくは4年(医者は修士課程が無く直接博士課程に入ってそのかわりに4年です)で学位は取れませんでした。 でも今となってみればこういう研究室だったので今の自分があると思っています。

一度はぼくを破門した当時の麻酔科の教授には「大学院でがつがつ研究成果を上げる必要はない。お前みたいな凡庸な人間は努力して10年くらいの後に自分のテーマといえるものが見つかればそれで十分である。」と言われました。その観点からは「放牧上等」ということでしょうか。

そうなると、悠長に院生の自立を待つ時間がありません。テーマを与え、こうやれ、と細かく指示する。医学系の研究室に多いと思いますが、院生は実験データだけ出すことを求められ、論文は書くことに慣れている教授が書いてしまう。そのほうが効率がよいわけです。院生にとっても、早く論文が出ますし、影響力の高い論文を出すこともできる。次の職を探す上で有利になります。

ぼくの留学先はこんな感じだったと思います。

ポスドク、テクニシャンはすごいストレスを感じていたと思います。週に一回のデータ検討会が終わと一週間が終わった気がするとポスドクの一人が話していました。木曜日にやっていたのですが彼にとって金曜日は休息日なのです。

論文もPIのおじさん(今ではあんなに有名になりましたがぼくが合流したときはprofessorではありませんでした)がぜんぶ書いてしまいます。余所のPIにきいても素晴らしい英語を書くと言われていました。Endnoteも使わずあっという間に論文を仕上げてしまうのです。

ぼくも自分のアイデアで行った実験は自分で論文を書きましたがPIの仕事は彼が論文を書きました。 この経験からも得るところはありました。

ちなみにさっきの教授には留学するときに「米国で一旗揚げようなどと妙なことを考えてはいけない。自分の道楽(研究の事)に家族を巻き込むなどの愚をおかしてはいけない。とにかくちゃんと食べて元気で帰国するように。お金が無くなったら牛肉を食べて牛乳を飲んでいればなんとかなる。」と言われました。

別に何の成果もなくとも「骨は拾ってやる」という意味だったのでしょうか。すでに退官していたのですけど…

というわけでこんなtweetをしたのですが若い人中心にちょいウケしたようです。

(明かな誤字の修正をしました)

 


某問題は笹井さんが出てきて話すそうですね。

ぼくとしては実は

 

 

と思っています。そして「何か」が何か知りたいと思っています。

御大も

 

とtweetしています。

実は多くの人に取って笹井さんの会見は先週の「某キャンペーン」より重要な「意味」を持つと思います。

カメラロール-2119

写真の左奥の建物はあの「新阪急ホテル」です。こんな観点から会場に選ばれていたのですね。

文藝春秋の5月号

特集 は

立花 隆 生命の謎に挑む

「寿命、容貌、知能、運動神経……運命は変えられるか」

です。

三編の対談

「百万人ゲノム計画」で医療の常識が変わる
(産業技術総合研究所フェロー)浅島 誠

人類の起源をたどる「ゲノムの旅」
(東京大学教授)菅野純夫

がんの遺伝子から特効薬を作る
(自治医科大学学長)永井良三

中山先生による未来予想

人間が“第二の創造主”になるとき  (九州大学教授)中山敬一

に加えて

私たち、遺伝子検査を受けてみました   阿川佐和子×檀 ふみ×冨田 勝

という鼎談で構成されています。

「私たち、遺伝子検査を受けてみました」は立ち読みでもよいので読みましょう。


PDF
Tagged with:  

第10回がんとハイポキシア研究会 Day2

On 2012/12/8 土曜日, in hypoxia reseacrh, by bodyhacker

第10回がんとハイポキシア研究会が盛会のうちに終了しました。

参加者数は今回は150人を越えました。学習院大学の中村先生に伺ったところによると前回は100人強の参加者数ではということでしたので増えたわけです。

京都大学からの参加者も10人を越えていました!!

 

二日目の今日はポスターを前にした議論がメインなのですが,ポスター参加者全員に5分間のプレゼンテーションを行っていただきました。わずか5分何なのですがそれ故に工夫して練られたプレゼンテーションになっていて各人の研究内容の概要が大まかに把握で来たと思います。

皆さんの協力で時間内に余裕で納まり結果としてポスターを前にしたディスカッションの時間が十分取れたと思います。

個人的にも興味をそそられたポスターがいくつもありました。

一つあげると関西学院大学の小林之乃さんの「Protein disulfide isomerase (PDI)による低酸素応答因子 HIF-1aの活性制御機構の解明」です。以前と言っても1998年とか1999年の時分ですがこの周辺の研究からHIF-1の研究にぼくが分け入ったという個人的な体験がありそれ故懐かしく感じたのです。

 

今回は東京工業大学の近藤科江先生の研究室の皆さんの全面的なサポートで会をスムーズに運営できました。ありがとうございました。

来年もよろしく!!

IMG_0855

会場はこんなレトロな建物でした

IMG_0845

8:55にしか扉を開けてもらえません

IMG_0859IMG_0860IMG_0858

こんなステンドグラスがありました

IMG_0861

IMG_0848

併催されていた講習会など

会場近くにはこんな碑がありました

IMG_0839

 

IMG_0853

ランチ

 

というわけで来年は仙台です。

東北地方地震だったそうです。身体的より精神的な心労は大きいと思います。

 


PDF
madeonamac.gif Creative Commons License