恒例ですので今年も「ハイポキシア生物学の2014年を振り返って」をやります。
メトリクス
pubmedで「HIF[TIAB] and 2014[DP]」と検索窓に入力する(as of 2013/12/29)と1601篇の論文があると返ってきます。「HIF[TIAB] and 2013[DP]」では1487篇です。
「hypoxia[TIAB] and 2013[DP]」では5596篇でhypoxia[TIAB] and 2013[DP]では5317篇です。「高度成長」は終わりましたが、低酸素関連の研究の堅調に推移しています。 ちなみにiPS[TIAB] and 2013[DP]では683篇でした。iPS[TIAB] and 2013[DP]では720篇でしたのですでにマイナス成長です。二の矢、三の矢が必要なのでしょうか?
今年も去年の傾向が続いていて、すでに「代謝」「炎症」分野と酸素代謝の関連の論文が目白押しだったと思います。
論文のチェックを毎週行っています。 まずタイトルを読んでこれはと思うとアブストラクトまで読みます。そこから図までチェックする論文は毎週20篇くらいはあると思います。 そこから論文を印刷して赤ペンでチェックしながら全部読んで引用文献もチェックした論文にはPapersで★を五つの満点をつけます。この基準を満たしたHIF関連の論文は15篇くらいありました。
5つの未解決課題
がんとハイポキシア研究会も今年で12回を数えるまでになりました。 第一回は京大会館の狭い部屋で極こじんまりと行ったのですが続きました。 来年は三島で開催です。
この研究会の10回目の会で「低酸素研究の10年」というタイトルのシンポジウムを行いました。 世話人が会の10年間を振り返るといった趣旨で企画しました。
ぼくは「hypoxia-inducible factorの20年と5つの未解決課題」というタイトルで話をしました。
そのおりに挙げた「5つ」の未解決課題は以下の通りです。
- HIF-1/HIF-2問題
- HIF-aの翻訳制御
- HIF-aの翻訳後修飾とその意義
- 低酸素センサーの実体
- 細胞の低酸素反応と生体の低酸素応答
自分が今までこの分野の研究を行ってきて不思議だなと思うけど明確な答えはまだないよね、と思った課題です。
低酸素センサーといっても単一ではありませんのでユニバーサルなセンサーはないとぼくは思っています。
HIFの活性化に限っても諸説がいまだに存在してそれぞれにそれなりのデータの積み上げが存在します。
HIFa水酸化酵素活性の酸素分圧依存性の活性調節を軸とした”セントラルドグマ”といわれる原理は存在してこれはいろんな総説でも取り上げられますがこれで全てを説明できるかどうかは未だ未確定です。
HIFの活性化は低酸素と同義ではありませんHIF活性化機序の説明は今ではここまで拡張しています。
「細胞の低酸素反応と生体の低酸素応答」 ということで説明したのは
“Epidermal sensing of oxygen is essential for systemic hypoxic response” の論文の内容です。 説明はしませんが生体の低酸素応答をマウスで説明した芸術的な論文です。
それに加えてぼくらの研究も紹介しました。
“General anesthetics inhibit erythropoietin induction under hypoxic conditions in the mouse brain“と
少し説明しましょう。
マウスを10%程度の低酸素環境で飼育すると4時間もするとerythropoietin (EPO)の血中濃度が上昇します。脳、肝臓、腎臓を取り出してEPOのmRNAの発現を調べると脳と腎臓で発現が上昇していることが解ります。その実験系に揮発性吸入麻酔薬であるisofluraneで組み込みます。するとEPOの血中濃度の上昇が抑制されます。mRNAの発現を調べると脳でのEPO mRNAの発現誘導が抑制されています。腎臓のmRNAの上昇は有意な変化がありません。 一方脱血モデル(脱血:注射器で血液を吸引します。するとヘモグロビンの濃度が下がり酸素運搬能が低下します)で同じ事を調べます。脱血をしてやはり4時間程度でEPOの血中濃度が上がります。脱血でも脳と腎臓でのEPO mRNAの発現が上がりますが揮発性吸入麻酔薬isofluraneはこのうちの腎臓でのmRNA誘導だけを抑制します。
この様な細胞の低酸素反応だけでは理解できなことへの解析は未だ不十分です。 ぼくはこの現象はすごく面白いと思っていてもう少し深く調べたいものだとは思っています。
麻酔・集中治療の世界でも臓器での酸素の需給バランスを問題にすることがありますが、寄って立つ理論的な背景は脆弱です。 臨床の学会でエラい先生がお話になるような御説はある意味明解ですがいったいどこにそんな根拠があるのだというような話が多く、乳酸値が高いから臓器血流障害があるなどの言い方も臨床現場ではいまだに通用しています。 もっともっと学問が進展するべきだとは思っています。
「5つの未解決課題」は「10の未解決課題」として準備していました。しかし、時間の辻褄があわない事が解ったので5つに減らしたのです。
残りの5つは
- 核移行
- 酸素分圧の測定
- HIFでないHIF-a
- epigenetic regulation
- HIFで発現が抑制される遺伝子群
です。
HIF-1aは低酸素環境下で核移行を起こすことが知られていてこの現象の分子機序の解明はHIF-1がクローニングされた時から未解決な大きな課題の一つでした。 この分野で今までで一番いい論文は “Mechanism of regulation of the hypoxia-inducible factor-1 alpha by the von Hippel-Lindau tumor suppressor protein”
いい論文です。読んだ回数は10回はゆうに越えます。 しかしこの論文も核移行がメインテーマの論文ではありません。 この問題は、いまだに未解決だとぼくは考えています。
低酸素下での遺伝子発現の変化とHIF-1aの持続活性化型の強制発現による遺伝子変化を別々に検討してその「積」をとればそれは低酸素による遺伝子応答のうちのHIF-1によるものが同定できるという単純な論理に基づいた論文があります。
“Transcriptional regulation of vascular endothelial cell responses to hypoxia by HIF-1”
AdCA5というのはぼくが作った持続活性化型のHIF-1aを発現させるアデノウイスルベクターです。”5″というのは5つ目のプラーク由来で一番性能が良かったものです。 この論文で解ることはHIF-1の活性化で発現が抑制される遺伝子が誘導を受ける遺伝子より多くあるということです。
抑制を受ける遺伝子が低酸素応答でどのような意味を持っているかはいまだに解明されているとはいえません。
以上の課題が全部明らかになったら-誰の手によっても-ぼくはこれ以上研究を続ける意味がなくなりますのでその時点でこの研究分野からは撤退しようと思っています。
大学院の先生方に是非とも読んでもらいたい論文を二つあげておきます。
“How to choose a good scientific problem” すごくよい文章です。
”役立たずな知識の有益性” これは去年詳しく解説しました。
先週末STAP問題と東大の分生研の加藤氏の研究室の研究不正問題の報告書がでました。 後者の問題は根が深く日本独特の問題ではなく世界中のどこでも現在進行形で起きている問題です。 ハッキリいって様々な防止策は何の意味もないでしょう。
たった一つの解決法は
じゃあどうするか。先日のうちのEthicsのセミナーでの結論はルールではなく環境。隣のラボの学生の発表に「そのコントロールで本当にいいの?」と聞ける、聞いた方が良い、という環境。ウザいという雰囲気を出さない環境。一番難しいがこれしか無いだろう。
— Jun Seita (@jseita) 2014, 12月 19
という意見に完全に同意します。
という訳でハイポキシア生物学の回顧とはいえないエントリーとなりましたが今年はこれでお終いです。
来年もこのブログを続けると思います。よろしく。
【追記】
今年一年ぼくたちのjournal clubで読んだ論文をまとめて見ました。
ここからどうぞ。
阪神地区は穏やかな年末です。
昨日までは本を読んでいましたが今朝からはTV番組の録画をみていました。これも観ました。
過労死対策の一環で手帳に毎日どんな麻酔を何時までしたかなどの簡単なログを採っています。どんな映画を観ただとかどんなものを食べただとかの記録も書くので見直すと面白いです。
米国にいるときに始めた週間でしたがその時のノートは失ってしまいましたー正確には見つからないー。 日本に2002年に帰国してからはほぼ日手帳を使ってログを採っています。
2013年最後のエントリーは恒例の「ハイポキシア生物学の2013年を振り返って」です。(参照)
メトリクス
pubmedで「HIF[TIAB] and 2013[DP]」と検索窓に入力する(as of 2013/12/31)と1487篇の論文があると返ってきます。「HIF[TIAB] and 2012[DP]」では1399篇です。
「hypoxia[TIAB] and 2013[DP]」では5317篇でhypoxia[TIAB] and 2012[DP]では5115篇です。「高度成長」が続いています。 ちなみにiPS[TIAB] and 2013[DP]では720篇でした。 日本では報道の回数は圧倒的に多いのですがまだまだ広がりはこれからなのでしょうか、それとも結局は潤沢な研究費を使える研究室に特権的な領域にでありつづけるのでしょうか。
昨年から今年にかけてerythopoietin(EPO)の発現制御でめざましい進展がありました。これには東北大学の山本雅之先生と鈴木教郎先生の研究室の貢献が大です。
山本先生の講演を二回、鈴木先生の講演を一回聴きました。論文もいくつか読んでご本人らに話しも伺いました。
異次元の解析ですっかり説得されています。
山本先生も鈴木さんもまだ筑波大学に在籍した当時に研究を開始されここまでたどり着かれました。 大根田さん、山下さんらを含む多くの研究者の努力の結晶です。
ここまで解析が精緻化すると培養細胞を用いた検討などは説得力に乏しいという事になってしまいます。
ぼくらも解析に値する面白い現象をいかに見つけていくかということが課題になるというふうに考えています。
A mouse model of adult-onset anaemia due to erythropoietin deficiency. Nat Commun. 2013;4:1950.
などは最近発表された論文です。
「代謝」「炎症」
低酸素研究が低酸素への細胞の影響という文脈で解析される機会はどんどんと減ってきています。完全に臨床的な諸現象のタメの重要な要素として取り上げられるようになってきています。 キーワードを挙げれば「代謝」と「炎症」という事になると思います。 なかでも代謝研究はHIFという補助線の登場と質量分析器の普及と平行して完全にリバイバルしていまや大流行となりました。 実験医学の増刊でそのものズバリのムックも出版されました。(がんと代謝~何故がん細胞が好んで解糖系を使うのか?メタボローム解析が明かすがん細胞の本質から代謝研究がもたらす創薬・診断まで) 炎症関連では”Chronic Inflammation: Molecular Pathophysiology, Nutritional and Therapeutic Interventions)という書籍も刊行されました。バランスがとれたよい本だと思います。 個々の論文を紹介する時間がないのですが一つだけあげて置きます。 “Adora2b-elicited Per2 stabilization promotes a HIF-dependent metabolic switch crucial for myocardial adaptation to ischemia.” です。 実はぼくもこのアイデアと似て非なる幼稚なものを考えた事がありましたがこんなに精緻なしかも大きな論文にまとめるなんて脱帽です。
と昨年書きましたが今年もこの傾向は進んできたと思います。 最新号のCellに以下の様な論文が出ています。
Probing DNA by 2-OG-Dependent Dioxygenase
dioxygenase, mitochondria, agingといえばHIFとかoxygen metabolism ということになります。
様々な生活習慣病の成立に通奏低音のように流れる慢性炎症の成立・維持に果たす酸素代謝の「乱れ」が果たすクリティカルな役割はほぼ確定していると思いますが各疾患モデルにおける解析は端緒についたばかりだと思われます。
FIH-1
セントラルドグマではPHDsに並ぶ「低酸素センサー」と考えられているFIH-1 (参照1, 参照2)ですがKOしてもパッとした表現型が得られるわけでもなく時々「ハッと」するような論文が出るもののイマイチ感がぬぐえない状況が続いていました。
2009年に東大の坂本さんがMint3-FIH-1-HIF経路の存在を証明した論文を発表されてから徐々に盛り上げってきて仙台ではFIH-1特異的な水酸化酵素活性阻害剤の話を聴いて、坂本さんや田久保さんのポスターみてこれからどんどんこの分野が盛り上がっていくぞという「兆し」を感じました。 とりあえずどうやって諸先生にぶら下がって行こうかと思案中です。
温度って重要なんですよ。
利根川進 以前と言っても20年ほど前大学院生だった時分に福武書店から出版された講演録を読んだことがあります。ーググってみました。「心とコンピュータ」という本です。-
研究者は研究人生で何か一つでも大きな仕事をすればそれで十分評価されるのだから焦るな。そういう分野を持てるまではじっと我慢すればよいのだ。ただ大学院生とかポスドクの時期の仕事はPIの仕事になる場合があるのですごいアイデアを思いついたら独立するまで温存しろ、みたいな話をしていたと記憶しています。
どこかで書いたことがあるかもしれませんがぼくは大学院生としては劣等生で数年間というもの意味のある実験結果は何も挙げられませんでした。さすがに悩んでもう大学院をやめてしまおうとか思った事もありあるところからは意地で実験を続けていたという側面もありましたが一方では実験をするのが結構心地よく特にデータが出たしてからはもっと実験をしたいものだと思いながら生活していました。研究室に行かない日は一年で10日もないという生活を送っていたと思います。それで結構利根川さんのその話は心に残っていたのです。
彼のいう「大きな仕事」というのはぼくが考える「大きな仕事」と較べればスケールが違うのでしょうが似たような事は大学院時代にお世話になったJY先生にもいわれた事があります。しかし自分ではではそれなりの仕事と思っていても他人はそうは思ってくれないと言うことも実際にはあります。新聞などで報道されるような研究というのはやはり「実用」ということが前提としてあるのでしょうが、研究といってもいろんな研究があるのです。 iPS細胞で網膜を再生して患者に使うというようなレベルだと十分に「役にたつ知識」ということになると思うのですが多くの研究成果は直接には何かの役に立つわけではありません。
翻訳家の山形浩生氏のブログエントリーを最近読みました。「役立たずな知識の有益性」という随筆が紹介されていました。
ーちなみにこのフレスクナーって人は野口英世の共同研究者の細菌学者のフレスクナーの弟さんのようですー
以前に麻酔科学会のニュースレターに書いた文章-学会員以外は眼にする事は無いと思いますーを掲載してみます。 今でも考えはまったく変わっていません。 一番たちの悪いのは思いつきでする患者を巻き込む臨床「研究」だと思っています。
第30回日本麻酔科学会山村記念賞をいただきました。ありがとうございました。
栄誉とは無縁の研究生活を送ってきたので”素直に”うれしいです。
医者が行う研究には大きく分けて臨床研究と基礎研究がありますがぼくは意識的かつ排他的に基礎研究に従事してきました。
4年間の臨床三昧の生活のあと1992年に大学院に入学して以来です。 特に信念があってテーマを選択したわけではありません。当時教室を主宰していた故森健次郎先生に言われるがまま半ばいやいや始めたのが細胞機能のレドックス制御という仕事でした。その延長線上で低酸素の仕事を現在でも継続しています。
森先生に初めに言われたことは,「臨床応用とか患者の病気を治してやろうだとか大それた事をお前が考えてもダメだ」,また「”ハウス栽培”ー有名な指導者のもとで指示通りに働くという意味ですーで花を咲かせてもつまらないから10年後くらいに小さな花が開くような”よい研究”をしろ」と言うことでした。また「一流研究者などにならなくてよいのでせめて二流研究者なれ」とも何度も言われました。いまだに真意というか寓意がよく理解できませんが研究だけは継続しています。
麻酔科学会の若い世代の会員の先生方も何か興味をもてる研究テーマを見つけてそれがたまたま麻酔・周術期管理と関係があればラッキーというノリで研究をしてみたらいかがでしょうか。何がどんな局面でどんな風に役に立つかなど普通の人には初めから解るはずなどありません。
最後に,今までぼくと一緒に研究をしてきてくれた大学院生の諸先生,研究への支援をいただいた北野病院の足立健彦先生,京都大学の福田和彦先生に感謝して擱筆します。
森先生はぼくの能力を正確に見切っていたのですね。
「今さら麻酔科学会の賞?」と思ったのですが教室の福田先生の勧めで応募してみました。
Greggも米国の小児科学会の賞-一応あの人小児科医だったんですよ.ぼくが研究室に参加した時はまだ准教授でbeeper持ってました。-をもらっていたなと思いだしたこともあります。
去年の暮れに書いたのですが大学の研究生活ってホントによいものなんです。ぼくも研究費を安定的に確保する術が得られればこれはパラダイスです。とくに「有名」大学に在籍している必要はありません。だって廻りにすごいばかりだとちょっと嫌気がさすでしょう二流研究者としては。(参照)
という訳で2014年は研究室を本格的に再稼働させて臨床検体を用いた検討を始めて他人に解析してもらえるような現象を見つけていきたいと思っています。
-追記-
「心とコンピュータ」って本棚にありました。この部分はほぼ正確に記憶していたようです。
他の人がどのように論文を作成しているかには興味があります。
自分の方法論はある程度確立しているとは思っているのですがより効率的な方法があれば「まね」したいといつも思っています。 指南書は書店でも何冊も並んでいますしamazonでもすごい数見つかります。
読んでみると当たり前の事が書いてあることも多いのですがそれでも通読すればいくつか教訓的なことは学ぶことができます。
このような指南書は大きく二系統に分類できます。
一つは,科学論文とはかくあるべきでありその為に論文はこういう風に書いていくのだという事に重点をおくもの。 もう一つは、内容より技術的なことに重点を置いたものです。
前者については研究分野が異なるとほとんどまったく役に立たなくなることがあるのですが後者はどんな分野であっても他人の”hack”を見せてもらったという感じで満足できる場合が多いように思えます。
後者の代表は、梅棹 忠夫 さんの「知的生産の技術」でしょう。 1969年に出版された岩波新書の一冊ですが今日性は十分あります。「知的生産」という言葉がクールです。先日,本を整理していたら出てきたので読み返しました。
諏訪邦夫先生の「医科学者のための知的活動の技法」も後者の代表の一冊です。 いわゆる座右の書-文字通り机の上に30冊くらい積んである本と云う意味です-です。 技術論なのですが不思議と今日性を失いません。
逆にこう書く「べき」系の本は時間が経つと古くさい感じがしてきます。
先日,紀伊國屋で二冊の本を立ち読みしました。
「基礎から学ぶ楽しい学会発表・論文執筆」 「査読者が教える 採用される医学論文の書き方」
いくつか「論文を仕上げて投稿して」のサイクルを繰り返していけば自分の方法論は確立されていくのだと思いますが初めての人はこういった指南書にあたってだまされたつもりでやってみるのも手だと思います。 でもこういった指南書を自分一人で読んで論文の投稿をおこなわないといけないような環境にいるとすればそれは不幸なことかも知れません。
紀伊國屋で
「ビジュアル図解 科研費のしくみと獲得法がわかる: 応募の方法から、申請書の書き方・仕上げ方まで」
「科研費獲得の方法とコツ 改訂第3版~実例とポイントでわかる申請書の書き方と応募戦略」
を見かけました。
後者はすでに改訂第3版ということで相当売れているようです。
目を通してみましたが始めて科学研究費申請をする人には大変役立つと思います。
申請書も書いて採択されるという過程を繰り返していると勘所が解ってくるという側面はありますがこういった本を参照して時々自分の方法論を批判的に振り返るのは悪い事ではありませんし無駄にはならないと思います。科研費のシステムには大きな問題があると思っていますが,現行の「ゲームのルール」には従う必要がありそのルールの理解にはこういった指南書が有用です。
科学研究費は研究機関に3割の間接経費が入ります。そう大きくない大学でも年間総額5億円だとすれば一億5千万円の間接経費が入ることになります。専任の職員を複数雇っても十分おつりが来ることになります。各大学でシニアな研究者が申請の全てに目を通して添削するなど行ったりしているようです。大学のサポートを受けることができやすい環境は整ってきています。
論文執筆でも科学研究費でもそれでは著者がどれくらい論文を発表しているのかとか科学研究費を獲得しているのかというのは重要な情報だと思います。いまはそれを簡単に検索できてしまいます。内容は優れていても…という指南書はいくらでもあります。今回紹介した4冊でも様々ですね。
あるtweetがきっかけで「査読のためのガイド」を読みました。
査読の仕方を学ぶ機会はそう多くありません。自分が投稿して査読者のコメントを読む。そのやりとりを通じて査読コメントの書き方などを学んでいくのだと思いますが大学院を終わって直ぐくらいであれば年間に10回もやりとりするという研究者は多くなくそれ故学ぶ機会も増えません。雑誌によっては最終的に採択された論文についてそれまでのやりとりを公開しているものがあります。参考にはなると思いますがちょっと怖いですね。
さてガイドラインです。 英国生態学会が発行するいくつかの雑誌に投稿されてた論文の査読者に向けて発行したガイドラインです。
最後の方にFAQがいくつか出ていました。
- How does an editor make a decision?
- Why has the editor disagreed with my evaluation?
- Is reviewing a revision different to reviewing the original submission?
- Do reviewers need to know whether an article will be published open access?
- Can I pass a review request on to one of my students?
- Can I review with my supervisor?
- Can I ask for advice on a review?
- What do I need to know about data archiving?
- Do I need to know whether data will be archived?
- What do I do with supporting information or supplementary files?
- Is reviewing for an open access journal different to reviewing for a subscription journal?
- Should I apply different standards when reviewing for different journals?
- How much time should I spend on a review?
- Do I need to correct the language in an article?
- How different should the confidential comments to the editor be from the comments that the authors will see?
- What should I do if I have already reviewed the same article for a different journal?
5番、12番、13番の質問に興味を引かれました。
いろんな考えがありますが自分が承けた査読は自分でやるとぼくは決めています。大学院生などに外注したりはしたことはありません。自分達の論文が院生などに査読されていたとしたらそれは悪夢だと思います。分量は多い月で4篇,少なければ1篇くらいでしょうか。今まで何とかしてきました。
雑誌にはやっぱり「格」があると思います。それを考慮せずガチのコメントを書いてみても意味は無いと思っていますが公式にはこういう査読には問題はあるのでしょうか。
査読にどれくらいの時間をかけるかというのは結構重要な問題です。そもそも一篇の論文の査読をするのに文献検索をして基本論文を読み込んで一から勉強をしないといけないとすればそれは自分がその分野の「専門家」では無いということを意味するのだと思います。査読を断った方が良いかもしれません。
赤ペンを持ってまず一回読んで問題点などを書き出して二回目を読んでコメントをまとめていくとどんなに短い論文でも-case reportなどは除く- ぼくの場合はやっぱり3時間くらい掛かってしまいます。その他に英語でコメントを書かないといけないという問題もあります。英語が余りにへたくそだと日本人が書いたコメントだと丸わかりになるのがいやで校正に結構時間を使ってしまします。 もう亡くなった師匠は査読コメントを英文校正してもらっていたそうです。
水曜日に中之島で開かれた 大阪大学社会経済研究所 第10回行動経済学研究センターシンポジウム 『医療現場と行動経済学』(参照)
小説家の久坂部 羊 さんが話しているのを直接聞くことができて満足です。
内容は,カーネマンの「ファスト&スロー: あなたの意思はどのように決まるか?」をネタ本としたものでしたがそれに「おもしろく」話すという観点が加わっていたと思います。
平日の夕方にも関わらずホールは聴衆でいっぱいでした。平均年齢は高く要するに暇な人が集まっていたのだと思います。かくいうぼくも暇だったので参加できたわけです。皆さんよい聴衆で医者の集まりでは確実に滑るだろうなと云うネタにも大きな反応が何度もありました。
Nature Medicineに
“Vessel architectural imaging identifies cancer patient responders to anti-angiogenic therapy“と題する論文が出てました。
これは面白いです。
—
こんなtweetがありました。(参照
他学部の博士号がどのようなものかよくわかっていないのですがtweetには一面の真理があると思います。
初期臨床研修が終わった時点で医学博士号を出したらいいのではないかと思っています。法科大学院を終えると「法務博士(専門職)」の称号を与えられるのだそうです。医学も「医療博士(専門職)」を出してこの時点でMDと名乗ってもよいし名刺には「医博」と書いてもよいようにするのです。博士号のために無理矢理大学院に入ったりする必要がなくなるし、グレイな論文博士を産み出すこともなくなります。 昔の医者は博士号を持っている人が多いと思いますが最近は持っていない人もたくさんいます。新しく医者になるひとが全員「医博」になると持っていない人が損をするような気になるかも知れませんが仕方ありません。