Checklistとは

On 2015/7/30 木曜日, in hypoxia reseacrh, by bodyhacker

前回からだいぶ間が空きました。

実験も自分でしているのでまとまとまった時間が取れないのです。

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“Checklist”が雑誌Natureで取り上げられました。

 

この”Checklist”は一般名詞のchecklistではなく、外科手術のおりに手術室で使う”Checklist”なのです。

WHOが推進している安全な手術のための一つの方策です。

手術室で麻酔の前、手術の前、手術室から患者が退室する際に手術に関わる医療スタッフでこのChecklistに記載されている事項を確認する目的の為に使用されています。

Atul Gawande氏の”The Checklist Manifesto: How to Get Things Right”はこのChecklistの啓蒙書です。読んだ事はありませんが邦訳もあるようです。

こんな単純なことを確認するだけで手術に関連した死亡率が1.5%から0.8%に下がったり、手術関連の合併症の発生率が11.0%から7.0%に下がったりする魔法のリストとして少なくとも日本のある程度の規模の病院ではどこでも利用されています(というか利用していないといろいろと不利な扱いを受けます)。(参照1)

そんな上手いことがあるのかと思う人がいてカナダのオンタリオ州の人たちが調べてみたところ’死亡率にも合併症の発生率にも差が無かった’という論文が出たりもしています。(参照2)

 

そもそも発展途上国ではパルスオキシメーターはおろか抗生剤も使えない場合もあります。その状況でパルスオキシメーターはおろか抗生剤が使えるとすればこれはいろんな改善があると思いますが、日本の様な国では改善の伸び代が少ないのは考えれば解ることです。

Natureの記事ではこの辺の事情が良くまとめられています。

その上で、Checklistはちゃんと使われていず、ちゃんと使えばやっぱり効果があるのだという最近の研究結果が紹介されてちゃんとChecklistを使おうよという「結論」が導かれています。

 

このChecklist使わないという選択肢を選ぶことが日本ではできない状況なのでなんともいえないのですがこれを使ったから何かを回避できたという経験はぼくはしたことがありません。またこいう運動の唱導者は妙な使命感に駆られテイル場合が多くぼくはどは「意識が低い」人間だと批判されます。手術をめぐる分野ではこのChecklistの他にERASというようなモノもあってこれまた熱心な唱導者がいるのです。これまたちょっとした異論を唱えると「バカに」されます。

 

興味のある人は医者でなくとも一読してみてください。ぼくらの日常の一端が垣間見ることができます。ほんと毎日こんなことやっているんですよ。

 

しかしどうしてNatureがこの記事を掲載したのかそれが不思議です。

著者はEmily Anthesさんでニューヨークのフリージャーナリストだそうで、ちょっと調べるとNature, New York time, New Yorkerなどの一流紙にいろんな記事を載せている人なんですね。

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何にもしていません

On 2014/11/2 日曜日, in hypoxia reseacrh, by bodyhacker

日当直です。

金曜日はちょっとエライ目に遭ったのですが、今日は今まで平穏で意味のあることは一切していません。



Nature誌に”The Top 100 Papers“という記事が掲載されていてちょっとした話題になっています。

科学論文の引用索引であるSCI(Science Citation Index)の初版が発行されてから50年になる。SCIは、Eugene Garfieldが設立した科学情報研究所(ISI)によって1964年5月に印刷版の提供が開始され、研究者たちのデータ検索に非常に大きな変化をもたらした。その後の電子版提供の影響は特に著しく、研究論文の重要度評価のためのモデルの1つとなった。この50周年を記念して、Nature はSCIを現在所有するトムソン・ロイター社に、オンライン学術データベース「Web of Science」にある被引用数が多い論文のオールタイムベスト100のリストアップを依頼した。これはなかなか面白い試みであることが明らかになり、また非常に意外な結果も示された。

という内容となっています。

「また非常に意外な結果も示された」という処が今回の記事の肝となっているのです。

例えば”The discovery of high-temperature superconductors, the determination of DNA’s double-helix structure, the first observations that the expansion of the Universe is accelerating”などのノーベル賞を受賞した仕事についての論文はTop100のリストには入っていません。 その代わりに実験手法やデータの解析方法の論文が軒並み上位を占めるという結果なったのです。 例えば10位までをリストアップしてみると以下の様な結果となっています。

Rank: 1 Citations: 305,148 Protein measurement with the folin phenol reagent. Lowry, O. H., Rosebrough, N. J., Farr, A. L. & Randall, R. J. J. Biol. Chem. 193, 265–275 (1951).

Rank: 2 Citations: 213,005 Cleavage of structural proteins during the assembly of the head of bacteriophage T4. Laemmli, U. K. Nature 227, 680–685 (1970).

Rank: 3 Citations: 155,530 A rapid and sensitive method for the quantitation of microgram quantities of protein utilizing the principle of protein-dye binding. Bradford, M. M. Anal. Biochem. 72, 248–254 (1976).

Rank: 4 Citations: 65,335 DNA sequencing with chain-terminating inhibitors. Sanger, F., Nicklen, S. & Couslon, A. R. Proc. Natl Acad. Sci. USA 74, 5463–5467 (1977).

Rank: 5 Citations: 60,397 Single-step method of RNA isolation by acid guanidinium thiocyanate-phenol-chloroform extraction. Chomczynski, P. & Sacchi, N. Anal. Biochem. 162, 156–159 (1987).

Rank: 6 Citations: 53,349 Electrophoretic transfer of proteins from polyacrylamide gels to nitrocellulose sheets: procedure and some applications. Towbin, H., Staehelin, T. & Gordon, J.

Rank: 7 Citations: 46,702 Development of the Colle-Salvetti correlation-energy formula into a functional of the electron density. Lee, C., Yang, W. & Parr, R. G. Phys. Rev. B 37, 785–789 (1988).

Rank: 8 Citations: 46,145 Density-functional thermochemistry. III. The role of exact exchange. Becke, A. D. J. Chem. Phys. 98, 5648–5652 (1993).

Rank: 9 Citations: 45,131 A simple method for the isolation and purification of total lipides from animal tissues. Folch, J., Lees, M. & Stanley, G. H. S. J. Biol. Chem. 226, 497–509 (1957).

Rank: 10 Citations: 40,289 Clustal W: improving the sensitivity of progressive multiple sequence alignment through sequence weighting, position-specific gap penalties and weight matrix choice. Thompson, J. D., Higgins, D. G. & Gibson, T. J Nucleic Acids Res. 22, 4673–4680 (1994).

一位は誰でも知っている蛋白定量法の一つであるLowry法の報告です。 ちなみにMullisによるPCR法の報告は63位です。

Rank: 63 Citations: 15,160 Primer-directed enzymatic amplification of DNA with a thermostable DNA polymerase. Saiki, R. K. et al. Science 239, 487–491 (1988).

100位で被引用回数は12,119となるようですし10,000回以上は148篇、1,000回以上の被引用回数の論文は14,499篇に留まるようです。 Google Scholarの統計を用いた結果も参照できて似たような傾向です。 Google Scholarだと

Citations: 223,131 Cleavage of structural proteins during the assembly of the head of bacteriophage T4. Laemmli, U. K. Nature 227, 680–685 (1970).

Citations: 192,710 Protein measurement with the folin phenol reagent. Lowry, O. H., Rosebrough, N. J., Farr, A. L. & Randall, R. J. J. Biol. Chem. 193, 265–275 (1951).

Citations: 190,309 A rapid and sensitive method for the quantitation of microgram quantities of protein utilizing the principle of protein-dye binding. Bradford, M. M. Anal. Biochem. 72, 248–254 (1976).

一位から三位はこのような結果となっています。

ちなみにTakahashi & YamanakaのiPS細胞の報告 Induction of Pluripotent Stem Cells from Mouse Embryonic and Adult Fibroblast Cultures by Defined Factors Volume 126, Issue 4, 25 August 2006, Pages 663–676 は10821回(Google Scholar)

今年のノーベル賞論文である The hippocampus as a spatial map. Preliminary evidence from unit activity in the freely-moving rat Brain Research Volume 34, Issue 1, 12 November 1971, Pages 171–175 は2662回(Google Scholar)の被引用回数です。

ノーベル賞を受賞すると被引用されやすくなるでしょうから単純には比較できませんが…

これをどのように解釈するかについてはいろんな意見があると思います。 少なくとも一線を画したと後に考えられる論文は10年もすれば1000回は引用されるだろうからそうでない論文はそう考えられていないとかもというくらいはいえるのかも知れません。

こんなtweetもありました。



すごいです。 学者冥利に尽きますね。

ぼくも1000回はなんとか目指したいのですが…


スポーツ遺伝子は勝者を決めるか?: アスリートの科学」 を読みました。

「世界記録はどこまで伸びるのか」 とか 「「黒人はなぜ足が速いのか―「走る遺伝子」の謎」

といったような人間の運動能力を論じたものです。 どこまでが遺伝子で決まっていてどこからがトレーニングなどで獲得したものかということが議論になるし最近ではエピジェネティックスな影響があるのかないのかなども焦点になると思います。

第13章はいわゆる「高地順応」についての章「世界で最も思いがけない(高地にある)才能のふるまい」です。 最近Genes & Developmentによい総説が出ていました。figure4面白いですけど怪しい感じもしますというか怪しいだろう。

Human high-altitude adaptation: forward genetics meets the HIF pathway Abigail W. Bigham and Frank S. Lee Genes Dev. 2014 28: 2189-2204


「数独」を数学する-世界中を魅了するパズルの奥深い世界

これめちゃくちゃ面白いです。

「数独」を数学する-世界中を魅了するパズルの奥深い世界-

さて明日の朝までこれからどうしよう。



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暇と退屈の心理学

On 2014/7/6 日曜日, in hypoxia reseacrh, by bodyhacker

大学の教員をしているので授業をします。

臨床実習の相手ではなく教室で授業をするのです。といっても年間に6コマとか7コマで始まってしまえばあっという間に終わってしまいますけど。

フリートークをするのでは無く担当が決まっているので、過去の資産を使える場合はある程度準備の時間が節約できますが職場を変わったり退職された先生がいて引き継いだりすると「イチ」からということになります。

医学部の普通の授業というのは特別講義とかとセミナーはすこし趣がことなり事実を重要性の強弱をつけて学生に話していくことなので面白いとか面白くないとかとはすこし違うと思っています。

すでに確立していること、この一年で変わったことなどを調べるのでそれなりに時間が掛かります。

例えば”Anesthesia“というこの分野の一番大きな教科書がありますが該当部分は改訂の有る無しに関わらず一度は目を通します。今では電子化されていますので補遺が追加されていきます。それにも目を通します。

その他その分野の基本的な教科書にも目を通します。

有力なこの分野関連の雑誌を検索してこの一年に出版された総説などにも目を通します。

という訳で結構な時間が掛かりますがたぶんこれがぼくの本職なんです。

 

これを学生に全て話すわけではありません。そんなことをしていたら何が学生として重要なのかわからなくなってしましますし一コマでは納まらなくなってしまいます。

こうなるとこれは学生の為にやっているのか自分のためにやっているのかなんのためにやっているのかわからなくなってきます。

少なくとも自分は物知りになる事だけは確かですが…

 

基礎研究の場合でもこのようなことは行っています。毎週決まった曜日に論文の検索を行って必要があれば読み込むという作業です。 論文や総説としてまとめる場合にはその作業の密度を上げることになります。 10000語の総説だと最低でも200篇の論文に目を通したりするのでこれはしんどいです。いまこんな作業をしていてこれが終わるまではぼくの夏はやってこない、というほど深刻な状況に追い込まれています。今も作業中なのですがストレスに耐えきれずにこんな駄文を書いて気晴らしにしているのです。

しかしこのような作業は自分のオリジナルな研究の推進にはそうそう大きな役割を果たしません。 過去20年以上の自分の研究歴を振り返っても文献検索が自分の研究を飛躍的に進めたという体験はありません。物知りになってどうするのだとは思うのですが、しかし、どうしてもこの作業は必要だとは思います。

 


雑誌 “Science”に”Just think: The challenges of the disengaged mind“というタイトルの論文が出ていました。

 

大学生を対象にした心理学的な実験をまとめたものです。

被検者は何の飾りもない部屋(unadore room)に椅子が置いてありそこに6分から15分ほど座ります(thinking periods)。携帯電話とかその他の持ち物は全て取り上げられています。

ここで課題を出されます。” think about whatever they wanted”と言う課題、他方は”chose from several prompts, such as going out to eat or playing a sport, and planned out how they would think about it”と言う課題です。

その後その体験を”enjoy”したかどうかの質問をされると両課題とも被検者の約50%はそうでなかったと答えました。 57.5%の被検者は集中できなかった、また89.0%は散漫な気持ちがしたいう答えをしました。 同じ検討を被検者の自宅で行っても結果には変わりがありません。 つまりunadore roomでという特殊な状況故ではないというわけです。ちなみに家での場合、立ったり何かしたりととかズルしちゃう被検者がいたそうです。

多くの被検者は”just thinking”という状況をenjoyできなかったという結論です。

次に面白い検討を行います。 痴漢撃退の時に電気ショックを与えるdeviceを使う場合があります。不快な体験で被検者にとって$5払ってでもこれを避けたいと思うような刺激となります。しかし、ここが面白いのですが、”thinking time”にボタンを押すとこの不快な刺激が与えられるという条件下で、67%の男性(女性は25%)はこの不快な刺激を受けるためにボタンを押したという結果が得られたのです。 つまり”pain or boredom”の選択で”pain”を選択する人がいたということです。

 

Nature誌での解説記事では

Wilson intends to pursue ways to tame what he calls “the disengaged mind”. “There are lots of times in our daily lives, when we have a little bit of time out, or are stuck in traffic or trying to get to sleep,” says Wilson. “Having this as a tool in our mental toolbox as a way to retreat or reduce stress would be a useful thing to do.”

こんなことが書かれていました。

 

自分に引きつけて考えてみても納得できるような話です。 麻酔中の患者さんの経過というのは一様ではありませんが、体表面の手術で経過が完全に凪ぎという場合もあります。ぼくらは様々なモニタとか手術の進行に注意を払っていることになっているのですがいくら集中しようと思っても何も起きないで内的には“the disengaged mind”となることがあります。こんな時にどうしてやり過ごすかとか考えると面白いと思いました。今度同僚や研修医くん・さんと話してみようと思います。

國分功一郎さんに「暇と退屈の倫理学」著作がありますが、これは「暇と退屈の心理学」ですね。

 

暇と退屈の倫理学

 

PNASに”Multiple types of motives don’t multiply the motivation of West Point cadets“という論文がありました。時間がないので後に何か書いて見ようと思います。


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