四月から大学院生として研究生活に入る皆さんが読んだらよいとぼくが思う10冊を推薦します。
以前にも数回同じ趣旨で本を紹介しましたがその2020年版です。
これら10冊は、ぼくの場合、本棚のアクセスしやすい場所においてあり年に数回か何らかの形で眼を通すぼくにとっての「座右の書」です。
一冊を除き新書・文庫本で選びました。
値段が安いし通読するのが容易だと思うからです。
千葉 雅也氏の一冊。
なぜ人は勉強するのか?「深く」勉強するにはどうすればいいか?ノリが悪くなる、キモくなる、小賢しくなることを恐れず、言語偏重の人になって視野を広げ、享楽に身を任せて勉強を続ければ、新しい自分になれる―。独学で勉強したいすべての人に向けて、その技法をわかりやすく解説。補章が加わった完全版。
です。
勉強のメタアナリシス。
ぼくは「勉強」する事が大好きで研究もその延長線上でやっている訳です。大学に入って「勉強すると褒められる」という世界がこの世の中にあると知って以来さらに勉強好きになりました。
「文」から「段落」そして段落の組み立てである「論証」へと流れていく過程が丁寧に解説してあります。
とにかく日本語重要。学会の抄録できちんと書けてないものはたくさんあります。というか字数制限のある抄録の方がよほど難しいのです。
この本を読んで、意識していくつか文章を書いてみるとだいぶ違ってきます。
いまやきちんとした日本語が書ければ機械翻訳でそこそこの英語へ変換することが自分のMac上でできます。
しかし論理的な一意に決まる日本語化を書くことができなければ妙な英文()に翻訳()されてしまい却って手間が掛かってしまう場合もあります。
現在ぼくは、英語に機械翻訳した場合にきれいな英語になる日本語を意識的に書く訓練をしています。
「発表の技法」
諏訪邦夫先生の**1995年**!! 出版のブルーバックス。
ぼくは、人前で話すのは得意ではありませんが学校の教員ですのでいろんな機会にいろんな聴衆に向けて話すことがあります。
基本的にこの本の方法を踏襲しています。20年経ってもまったく内容は現代的です。プレゼンターション用のスライドがこうあるべきであるという箇所は基本過ぎてどこにも書いてない内容が懇切丁寧に書いてあります。
本は絶版ですが、Kindle版はあるようです。以前にこのブログで紹介したことがあります[参照]。
頭の体操になります。
研究は少なくともぼくには一種の「暇つぶし」-暇と退屈の倫理学の文脈で-なのですが、それでも自分は何をしているのかについてを意識しなければどこにも行けません。
暇と退屈の倫理学 増補新版 (homo Viator)
以前に紹介したことがあります[参照]。
「信ずることと知ること」が収録さています。
講演録です。
講演の音声を収録したDVDもあります。講演のタイトルは「信ずることと考えること」。
以前に紹介しました[参照]。
「数学文章作法 推敲編 」
タイトルは「数学」とありますが、全ての理科系の文章に当てはまると思います。
「基礎編」は以前に紹介しました。
「20歳の自分に受けさせたい文章講義」
it worksという感じの一冊。
以前に紹介しました[参照]
「科学的方法とは何か」
1986年出版の中公新書です。 以前に紹介しました。
内容はいまだ全く色あせていません。
「武器としての交渉思考」
サバイバルには必須の技術です。
以前に紹介したことがあります[参照]。
以上です。
Apple WatchにSuicaを入れて使っています。
財布はもちろんiPhone出すのも面倒です。
どこでも使えるようになってきてもうこれでいいのではと思っています。
無給医
無給医問題があります。
ぼくは25年くらい前大学院に入る少し前、当時の教室の教授とこの問題について激論して一度破門になったことがあります。
その後また戻してもらってある時に、「あの時は俺が間違っていた」、と謝っていただきました。
嫌なら無給で働かなければいいのだというのがぼくの答えです。
仮病の見抜き方
影響を受けやすいタイプです。
「仮病の見抜きかた」は、珠玉のミステリー短編集であると同時に、まっとうな医学書。2019年前半の僕のベストブック。
— もんかわ (@tmon)
をみて早速本を読んでみました。紀伊國屋にはなくてAmazonで注文をしました。
10のエピソードのうち5つくらいはぼくにも判りました。 多分AIにも分かったと思います。
「Episode6」についてちょっと書いてみようと思います。
以前こんな症例報告をしたことがあります。
ある年の4月、新研修医と一緒に麻酔をするのが嫌だったので自分一人で麻酔を担当することにしました。当時手術室の症例はぼくがあてていました。
入室時血圧が少し高いと思いましたが「別に」という感じで硬膜外チューブを留置して麻酔をはじめました。
縦隔の再発腫瘍切除でしたが、血圧の管理に結構苦労しました。
硬膜外麻酔がうまくいっていない感じでぼくにも「焼きがまわったな」と思いながら麻酔をしてました。
抜管してガス分析をすると、K+=1.6 mmol/lだったので焦りました。2回くらい測り直しました。
pH 7.549でHCO3-も46.9 mmol/lだったのですがこの時は低カリウム血症以外は考慮の外でした。
Kの補正を開始して担当医と相談の上、病棟に移動としました。
心電図以上やその他の症状はありませんでした。
ちなみに硬膜外はよく効いていました。
病棟で色々と話を聞くと甘草を服用していることが判り「なんだ」ということに一旦はなりました。因みにこれって国家試験レベルのネタです。
ここで内分泌の医者ーぼくの同級生のT村くんーが登場して検査の結果ACTHがすごく高い事が判りました。6年前の腫瘍がACTH産生腫瘍に形質を変えていたのですね。手術侵襲が加わって急速に症状が出てきたと考察しました。
その後、ICUに入ったりとか精神状態が変動したりとかこの病気で起こりうるほぼ全ての症状が出現して最後はカリニ肺炎も起こりました。
やっぱりこれは症例報告だろうと研究室で当時院生だったK本くんに話したらまだ英語で症例報告をした事がないという事で書いてもらいました。
と言う訳でちゃんと医者らしいこともしています。
因みに症例報告も出来が良いと結構頻回に引用されます。でも自分で良いと思っている報告がたくさん引用される訳ではありません。
この報告も英語は良いなどと査読コメントに書かれたような気がします。そんなのわかってるって、言われなくとも。
「Episode6」的な「落ち」もある非常に優れた症例報告だと自負しています。一種の「名作」です。
「Episode9」も判りました。なぜかというと今、某ホルモンの研究をしているから。
この本のepisodeは無いようで結構有る症例を集めてあるのだと思います。
値段も医学書と思えば安いです。
時間がなくとも一つのepisodeだけなら短時間で読みきれます。
ところでぼくの上半期のベスト本は
ぼくは家内より一秒でも長生きしようと思っています。
2016年のベスト本
前回のエントリーで予告した通りに昨年に続き「2016年のベスト本」をやってみたいと思います。
本は基本的には通勤電車([25分+20分]x2)の中でしか読まないのでそう多くの本を読むわけではありません。
フィクション
結構最近「蜜蜂と遠雷」を読みました。これは力作です。
コミックの「ピアノの森」と似ているところはあったと思いますが一気に最期まで読まされました。
才能と努力とかそのような話題を考えさせられます。結構な分厚さで上下二段で正月休みにもってこいのボリュームです。
「「風が強く吹いている」」も偶然映画を観てそれで読みなおしました。
こういう小説ってたぶん英語に翻訳される機会は少ないと思うのですが読んだ人のその後の考え方にとても強い影響を与える可能性があると思います。
「マチネの終わりに」には新聞の連載小説ですがぼくはcakesでの連載でフォローしていました。まとめて読んだのはKindle版でamazon unlimitedで読みました。
「夜行」もすごく楽しめました。「蜜蜂と遠雷」と共に直木賞の候補になっているようです。
京大も20年後には平野啓一郎,森見 登美彦,万城目学の母校として知られるようになると思います。
麻見 和史さんの警察小説のシリーズがあります。 如月塔子という名前の女性刑事が主人公で副題に警視庁捜査一課十一係とあるように彼女を巡る群像が殺人事件と絡められて進行していきます。 数年前に文庫本を見つけて文庫本になっているところまで(6冊あります)は全部読みました。
「警視庁捜査一課十一係」の面子が正式な捜査会議のあと集まって一杯やりながら行う事件の「筋読み」のシーンがうまく書かれています。実験室でも気軽にデータを持ち寄ってお互いに批評しあう雰囲気があると研究も楽しくなりますよ。 テレビドラマにもなっています。 「石の繭」と「水晶の鼓動」が「如月塔子」を木村文乃さんが演じて公開されています。 小説も面白いですがドラマもおもしろいです。木村文乃さんは好演というか彼女しか適役はいないという演技です。 読むのが面倒な人はビデオ観てください。結局本も読みたくなると思います。「ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子」を凌駕するおもしろさです。
文庫本を6冊とビデオを見たら正月休みの暇つぶしになります。
「パードレはそこにいる」 騙されたと思って読んで見ると得します。(上)・(下)あります。
でベストは
です。
ノンフィクション
「村に火をつけ,白痴になれ――伊藤野枝伝」 と「狂うひと ──「死の棘」の妻・島尾ミホ」には驚きました。
「狂う人は」年末の各紙の今年の三冊とかの特集でも多くの評者にあげられていました。島尾夫妻もすごいけどこれを書き切った著者の梯さんにも脱帽です。
文庫本を読みました。 家内も母親にどんな気持ちを抱いているのか聞きたくなりましたが怖くなって止めました。
雑誌「考える人」の連載の単行本化されたものです。大阪の箕面が舞台なのでより興味をもって読むことができました。
池澤夏樹さんが編集して刊行が続いている河出書房新社の日本文学全集のうち今年刊行された
を読みました。
特に酒井順子さんが担当した枕草子は橋下治さんの「桃尻語訳 枕草子」を凌ぐ現代的だな名訳だと思います。
翻訳物の医療関連の一般書が何冊か出版されたました。
「いま、希望を語ろう 末期がんの若き医師が家族と見つけた「生きる意味」」
それぞれ
“Being Mortal: Medicine and What Matters in the End“
“Do No Harm: Stories of Life, Death and Brain Surgery”
の邦訳です。 全部英語で読みましたが,死すべき定めは邦訳も読みました。英語が難しいかったです。
医学部の教材にしてもよい三冊ですが一冊選べといわれたら断然“Do No Harm”です。素晴らしい。
「エンゲルス: マルクスに将軍と呼ばれた男」 と「日本語を作った男 上田万年とその時代」 は堪能しました。
「これからのエリック・ホッファーのために: 在野研究者の生と心得」 には考えさせられました。
英語の本で邦訳がまだ出ていないものとしては
“The Undoing Project: A Friendship That Changed Our Minds”
“The Gene: An Intimate History”
は今年読んだもののベストなのですが2015年の発行なのでおいておきます。
でベストは
です
New York Times で二つ書評(これとこれ)があってNatureでも紹介されています。
ハワイ大学の研究者Hope Jahren氏の回想録です。
女性研究者の回想録という側面が強いですが「リケジョ」的な話ではありません。 全ての理系研究者は読んだらタメになります。
翻訳がでたら読んでみたいと思います。これがどういう感じに日本語になるのか興味があります。
Kindleと紙の本を両方持っています。これもKindleで買えるので正月休みで読み切ることができます。
翻訳物といえば 「小澤征爾さんと、音楽について話をする」の英訳がでていました。
楽しめました。
以上です。
本なんて高いようで安いです。このほかにも買いたい本は買いますがたぶん月に2万円は使っていません。
【追記】
これ忘れていました。